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8
〇二階堂 空
「アメリカ!?」
泉が大声で言った。
「どっどうしてアメリカ!?」
「ずっと考えてたんだって。」
母さんは頬杖をついて、ちょっとばかり沈んだ声。
「父さんはなんて?」
「行って来いって。」
「そんな〜。」
泉、兄貴のこと大好きだもんなあ…
ま、父さんもアメリカ勤務経験者だから兄貴のためになると思って承諾したんだろうけど。
母さんは、面白くなさそう。
「姉ちゃんは、どう思う?」
泉に話をふられて、それまで黙ってたあたしは、驚いたように泉を見る。
「…どうって…」
「だって、アメリカだよ!? それも、期限なんてないって!現場で行くってのとは違うんだよ!?」
「……」
「姉ちゃん!」
あたしは、少しだけ間を開けて。
「何かさ…」
口を開く。
「兄貴、仕事好きだけど…自由じゃないじゃん。」
「…え?」
あたしの言葉に、泉はキョトンとして、母さんはゆっくりあたしを見た。
「昔から、跡取りとして頑張ってさ…ワガママも弱音も言ったことなんてないじゃない。そんな兄貴が、初めて言ったんでしょ?なら、あたしは…兄貴に行って欲しいなって思う。」
「空…」
「母さんは何で反対してんの?」
あたしの問いかけに、母さんはうつむいて。
「…どうしてかしらね…」
小さく答えた。
「空の言う通り。今まで海は跡取りとして頑張ってきてくれた。でも…アメリカに行きたいなんて、いつから考えてたのかしらね…こんなにそばにいたのに…気付かないなんて、母親失格ね…」
「そんなの、あたし達だって気付かなかったよ。」
泉が、母さんの肩に手をかける。
母さんが涙ぐんで、つられて泉までが目を潤ませてる。
確かに…
いつから?どの瞬間から?
兄貴は、アメリカに行きたいなんて思ってたんだろ…
「…あ…」
ふいに朝子がリビングに入って来て、あたし達の様子に。
「ご…ごめんなさい…」
引き返そうとした。
「朝子。」
あたしは、朝子を呼び止める。
「…はい。」
「聞いた?」
「……」
朝子は、ゆっくり頷いた。
…目が赤い…
朝子も知らなかったのかな…兄貴がアメリカに行きたがってたこと。
「…大丈夫?」
「あ…あたし?あたしは、全然大丈夫。」
そう答えた朝子の目からは、ポロポロ涙がこぼれ落ちたのよ…。
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