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〇二階堂 紅美
「体育…小田切 隆夫。」
あたしはリビングのソファーに寝転がって、プリントを眺めてる。
何のプリントかというと…
桜花桜花学園高等部、今年度の職員一覧。
プシッ
ローテーブルに置いてる缶ビールのプルタブを片手で開けて、起き上がりながらそれを手にする。
胡坐をかくと同時にそれを口に運ぶと…
「こら、紅美紅美。またそんな行儀の悪い…あっ、もう、ビールはダメって言ってるでしょっ。」
洗濯物を取り込んで来た母さんに見付かって、しかめっ面をされてしまった。
「うぇーい。」
「その返事、やめて。まったく…うちには息子が二人いるみたいだわ…」
母さんの愚痴を聞きながら、乾杯ポーズをしてビールを飲む。
「そのプリントは?」
洗濯物がゴッソリとあたしの隣に置かれる。
うっ…たためって事か。
ま、暇だからいいけどさ…
「今年度の先生。」
「ああ…じゃあ、小田切先生の名前もあるのね?」
「ふっ。母さんまでそう呼ぶかな。」
「見てみたいなあ。海君のジャージ姿。」
母さんの言う『海君』は、二階堂本家の長男。
あたしのイトコだ。
本家はヤクザを装った秘密機関で、海君は今、潜入捜査で桜花の体育教師になりすましている。
その名も、小田切隆夫。
「紅美のクラスは担当じゃないの?」
「うん。今年も違うみたい。」
「残念ね。」
「なんで。違う方がいいよ。」
「どうして?贔屓してもらえばいいのに。」
「体育で贔屓なんて、絶対要らないけど。」
「そう?」
他愛ない会話をしながら、洗濯物をたたむ。
あたし、二階堂紅美は桜花の高等部二年になった。
学校に行って勉強して、親友の沙也伽と喋って。
幼馴染の沙都と一緒に帰ったり寄り道したり。
帰ったら、ごろごろしたりテレビ見たり。
母さんの作った、美味しい晩御飯を食べて。
天才って言われてる弟の学が書いてる論文を眺めたり、地下にあるスタジオで父さんとセッションしたり。
お気に入りの入浴剤を入れて、お風呂を楽しんで。
風呂上りはビールを飲んで。
する事がない夜は、思いついたように走りに行って、またシャワーしたり。
…平和だ。
あたしは、あたしの日常が好き。
家族も、友達も、音楽も。
大好き。
*未成年の飲酒描写がありますが、推奨しているわけではありません
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