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 ざわつく昇降口前。人垣をかき分けてクラス名簿の中から、自分の名前を探す。仲のいい子たちと同じクラスだったことに、ほっと胸をなでおろした。 「芽依(めい)! また同じクラスだね! 嬉しい」  友達の香織(かおり)は人懐っこい笑顔で駆け寄ってくる。香織は私よりも身長が低くて、動きが小動物みたいで可愛い。 「私も、よかったよ~。知っている人いなかったらどうしようかと思った。完全にぼっちになるところだったもん」  桜の花びらが隅に固まるたたきで、ローファーと上履きを履き替える。私たちは三階にある2年3組の教室へと歩きだす。 「ねえ、そういえば知ってる? 新しく来る先生の中にイケメンがいるらしいよ」  香織は頬を緩ませながら、顔を近づけてくる。イケメンの話をするときの香織はいつも楽しいそうだ。だがしかし、イケメンと付き合いたいというわけではなく、あくまで目の保養にするのが楽しいのだと以前話していた。 「えー本当なの?」  私は疑わし気に香織に問いかけた。 「ホントだってば。目撃者もいっぱいいるらしいよ。何の教科の先生かは分かってないけど」  イケメンの先生がいるかいないか真偽はいいとして、もしイケメンの先生が来たとしても私の生活に影響はないだろう。そもそも、私は美男美女と一緒にいると萎縮してしまうのだ。まるで別の世界の住人に思えてしまって……自分に自信が持てなくなってしまう。  もともと私はこんなふうに卑屈に考えてしまうような性格ではなかった。どちらかといえばポジティブだったと思う。今の性格になってしまったきっかけは、明確だ。  私の通う高校は音大附属第一志望校の滑り止め。つまりは受験に失敗したのだ。落ちた当初はひどく落ち込んでいたが、香織のような気の合う友達に出会えたことで心は軽くなっていった。  だけど受験の失敗は自信だけでなく、私の全てを奪っていった。今の私は空っぽだ。将来の夢も希望もなりたい姿も、想像できないくらいに。  心の内でそんなことを考えているうちに、2年3組の教室に着いた。教室内では何人かのグループがいくつか既にできていて、楽しそうに談笑していた。私は香織や席の近い子たちと会話しながら、担任教師が来るまで時間を潰した。  
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