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猫の様なあなたを見ていて
「……部活中なのに寝転び過ぎ」
「あつー……いもん」
夏休みの足音がもう直ぐ聞こえて来そうな、二人だけしか居ない教室。
しかし廊下側も外側も、扉と窓を全開にして風通し良くしているので、暑い筈は無いと断言する。
とあるSF小説の単行本を読んでいた俺は、教室の隅にある畳みで寝転び続けている彼女を見て、溜め息をついた。
この教室は少し特別で畳みが設置されている。元々、茶道部が使う事を想定していたかの様に作られたそうだが、茶道部は残念ながら人数も集まらずに、数年前に廃部になってしまったそうだ。
かくいうこの部も二人しか居ない為、廃部の可能性も考えられなくもなさそうだ。
この小鳥遊高校には文芸部があって、俺は其処に所属している。
一年前まで先輩が何人か居たのだが皆卒業してしまい、部員は俺と彼女の二人だけになってしまったのだ。もう文芸部というよりは、文芸同好会と呼ぶのが正しいのかもしれない。
しかし彼女はずっと寝転んでばかりだった。その為、彼女は仇名で寝太郎ならぬ寝子――“猫”とそう呼んでいた。
「ちゅーいするあなたもずーっと、ほんよんでるだけだよー」
「本を読んでないと、お前みたいに台詞に漢字が出ないぞ」
「えー……」
未だ寝転び続ける猫。こう書いてみると中々趣を感じるものがあるなと、俺は思う。
「……まぁ、何か良いネタが思い付かないしな」
ネタが無い訳では無いが。ただ見つけたそのネタを上手い具合に話として繋げていくには、元のネタに適した言葉──話の欠片を幾つか集める必要があると俺は思っている。
切りの良いところまで読むと本を閉じて、そこで俺はある決意をした。
「よし、合宿しよう」
「おぉ!」
猫は勢い良く起き上がり、目を輝かせた。……恐らく本心は遊びたいだけだろうな。
「……日程は又、帰ってから考える。……遊びに行くんじゃないからな?」
「よーっしっ! あそぶぞー!」
「遊びに行くんじゃないぞ」
俺の話も聞かず、彼女は部活が終わるまで燥ぎ続けた。
* * *
合宿は学校が夏休みに入ってから約二週間が過ぎた後、とある山の中にある木建ての家で行う事に決まった。合宿をする訳なので勿論、
「さて、一応合宿だし、自炊しないとな」
「じすいー?」
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