猫の様なあなたを見ていて

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「うん、自炊。自分達でご飯を作る」 「まじでー……」  木の床で寝転がり始めた猫。  部室としている教室にあった畳みとはあまり良くは無い寝心地だろうか。しかし彼女は何処であろうと構わないのだろう、現に寝転がっているからだ。 「何作るかはもう決めてあったと思うけど……、やはり忘れてたか」 「うん」 「女子の癖に」 「さべつはよくないー」 「しかし、この世には“女子力”という言葉があってだな」 「じょしりょくとは」  日も暮れてきた事だ。  暫くこのやり取りが続きそうなので、もう始める事にしよう。持ってきた荷物から、これから作るカレーの材料が揃っているかどうか一つ一つ確認し始める。  その間も猫はずっとゴロゴロと木の床を寝転がり続けていた。 「取敢えず、材料は持って来ているし、作るぞ」 「ねるー」 「作るぞ」  強引ながらも猫を働かせて――こう書くと違和感を覚えるので訂正。  強引ながらも彼女を働かせて、二人で合宿の定番であるカレーを作り始めた。 * * *  その日の夜、カレーを食べ終えると、調理器具と食器を坦々(たんたん)と片付ける。そしてテーブルの周りを猫と向かい合う様に、位置に就いて座った。 「はー……。カレーはおいしかったけど、あらいものがおおくてつかれたー」  テーブルの上に向かって、頭を突っ伏して寝る猫。  しかし、カレーを作る事が合宿の本題では無い。 「じゃあ、これからお題に沿った即行小説を書いてみようか」 「えー、けっきょく、なにかかくんだー……」 「文芸部の合宿だからな、当然だ」  俺はお題を何にするか考え込んだ。そういえば、合宿の手順は(しっか)り考えて来たが、お題だけは結局思い付かなかったな……。 「お題は……何にしようか?」  ただ寝転がっている猫に駄目元(だめもと)で言葉を放ってみた。しかし本音を述べると、これは俺のただの独り言みたいなものだから、そういうつもりで放った訳では無い。辻褄(つじつま)合わせとしてのただの言い訳だ。  すると、彼女はポツリと一言だけ呟いた。 「……かたな」 「……刀?」 「うん、かたな」  これはきっと寝言みたいなもので特に深い意味は無い、ただの思い付きだろう。周りにはそんな竹刀とか、木刀とか、それらしきものは見当たらない。如何してそんな言葉を浮かべたのか……
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