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……まぁ、良いだろう。
「何でかは分からないけど、じゃあ始めよう。制限時間も決めておこうか。……そうだな、一時間で」
彼女は何かを思い付いた顔で突然、シャーペンを垂直に構えて、俺に向かって――
「めーーっんっ!」
「剣道じゃない。……あ」
剣道の真似事してきた猫を見ていて、俺はある事に気が付くと自然に手は動いていた。
* * *
どんな今を過ごしていますか。
何年経っても色褪せない、
好きだった歌は今も歌えていますか。或いは聞こえますか。
月や星の様にそれ以上に煌く、
好きな絵を今も描けていますか。或いは見つけられましたか。
冷えた心の温まる言葉がつまった、
好きな物語を今も書けていますか。或いは出逢えましたか。
あなたの思う様な、良い時間を過ごせていますか。
何をどんな風に過ごそうとも、あっという間に一時間の時は流れた。
「おわったー」
そう呟いて、いつもの様に寝転び始めた猫。
……これはきっと良い意味で真剣勝負だったと思う。
相手は真っ白な原稿用紙で、剣道の様に向き合う。
俺は、あの時の彼女を見て気付かされた。
小説を書く姿は、剣道と一緒だった。
これは彼女に対する弁明として書いておこうか。
俺は彼女をずっと猫の様子で書いていたが、実際の彼女も猫の様に気怠そうな態度ながら、成績は優秀なのだ。そして原稿用紙の前では真剣な表情でお話も書いている、但し何か書き終わったらよく寝転がっているが。真実を述べると、ただ猫みたいな無邪気さがある、それだけの事だ。
俺の話の中での彼女はずっと猫の様に寝転んでいるが、それはいつも先に小説を書き終えているからで、いつも何も書けていない俺の為に何かしらネタを与えてくれているのだ。
そして本を読んでいる俺の姿は、家に居る時の俺がモチーフ。それで思い付いたのが、このお話。
いつもの日常をどんな風に過ごしていても、物語になるんです。
誰かがそう呟いた通り、俺も含む誰もが主人公で、今過ごしている時間から辿った過去は、道となって自然に物語を描いていた。
これを切っ掛けに、次のお話も何か書けそうな気がする。俺と猫が一緒に居る時間が続く限りは。
「できたー?」
そう尋ねて来る猫。
さて彼女の書いた即行小説も、これから読ませて貰おうか。
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