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魔女集会のある朝に
ある日、森の中――
……魔女さんに、出会った。
「おやおやぁ……、こんな暗い森の中で……。命知らずだねぇ」
帰る家も無く貧乏な僕は、此処から随分遠くの街でスリとして街人から金銭を盗んで生活をしていた。
そして運が悪い事に今日は街人の一人にこっそり盗んでいるところを見つかってしまい、無我夢中で走って逃げ続けた。そんな中、隠れるのに丁度良いと思って、この深くて暗い森に逃げ込んだ……つもりだった。
その運が祟ったのか、あまり良い噂を聞かない魔女さんにバッタリと出逢ってしまったのだ。
しかし良い噂が無い割に、魔女さんは区別の付きにくい妙齢の容姿で、年寄りな口調でもその声は容姿の見た通りに若かった。
さてさて出遭ってしまったからには、逃げ出すのが普通だろうか。
逃げ出しても直ぐに追い付かれるだろうか。……どうしたものだろうか。
背後を振り返ったが、僕は直ぐに逃げ出さなかった。逃げ走る事に全ての力をつかってしまったせいで、足は役に立たないただの棒となっていて如何にもならなかったのだ。
そのまま逃げ出さずにとうとう、魔女さんに服の襟を掴まれてしまった。
「……おやおやぁ、直ぐに逃げ出した方が良かったものを……」
服の襟を掴まれると、本のページを捲る様に動かされて、魔女さんの顔と間近でお見合いする事になってしまった。僕は畏怖の表情を浮かべる事無く、ただ睨んだ。
「……」
「……ふむ、坊や。妾の事が怖くないのかい……?」
『坊や』と呼ばれた事が癇に障って、僕はつい強気な態度で答えた。
「坊やじゃない、ニコルという名前があるんだっ!」
「……ほぅ? ――では、ニコル。本来なら、お前を直ぐに煮て焼いて食っているところだ。しかし、そのか細い身体ではあまり美味しくなさそうだ……」
「……」
魔女さんは薄ら笑いを浮かべていたが、僕は魔女さんを更に睨んだ。
「家畜の様にもっと肉が付いていなければのぅ……。そうだ、暫くの間、我が僕として飼い馴らしてあげよう」
魔女さんは不敵な笑みを浮かべていた――。
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