魔女集会のある朝に

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* * *  ――十年後。  その日、深くて暗い森の奥で、柔らかな陽光の便りが、たった一つしかない屋敷の方へ届いた。  世界中の何処かへ散らばっている魔女達が集う、“魔女集会”がある事を告げに。 「……はぁ。まさか、あの坊やがなぁ……」  魔女は()()があるにも拘らず、のんびりと机上で頬杖をついていて、俺の方を向いてくれば溜め息をつき、何やら云っている様だった。 「此処まで大きく育ってしまうとは思わなかった……。もう、食べ頃は過ぎてしまったのぅ……」  しかし、その言葉は俺には聞こえなかった。  俺は魔女の世話で荷物を整理するのに集中力を向けていたからだ。気怠そうにしている様子は見えていなくても、何となく背後から感じてはいた。  先月に保護した魔物について纏めていた報告書の数々、光と闇の防衛魔術の教本、薬草大辞苑、黒く長い外套の着替え、其々の毒に対する解毒薬の入った薬瓶の数々……、取り敢えず、数十分前に魔女に言われていたモノを全部、鞄に詰めた事を確かめた。  ――魔法の鞄なので、何でも入りはする。 「……支度が整いました」 「うむ、ご苦労」  魔女は、出会ったあの時と変わらない容姿で居る。  殆ど歳を取っている様には感じられない。 「……お時間です、――×××××様」  燕尾服のポケットに仕舞っていた懐中時計を手に取って、時間を確かめると、俺は魔女の方を向いて、時が来た事を告げる。  魔女はゆっくりと俺の方へ振り返る。 「――()い。……では、行くかの」 「はい」  唯、そう答えた。  魔女は椅子から立ち上がると背伸びして左右に身体を伸ばし、机上から持ち手が蛇の様にうねった杖を手に取ると、背後を振り返った。  その先のハンガーフックに掛かっていた、鞄に詰めたのと同じ黒い外套に向けて杖を軽く動かしてみせると、外套は烏の翼の様に大きくはためかせさせながら動いた。ゆっくりと魔女の身体の上を覆う様に舞い降り、そして深そうな袖のトンネルも通した。  それから、黒い外套の内側に先程の杖を仕舞い、コツコツと足音を立てながら俺の方に近付いて来た。
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