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「呼び出して、すみません。」  10月に、アメリカ事務所との契約が終わった華月が、帰って来た。  そして、ビートランドと契約した。  これからは、国内での仕事を増やしていくようだ。 「いいえ…いつも華月がお世話になります。」  あたしは、目の前にいる泉ちゃんにお辞儀をした。 「あ…聖…も?」  あたしが首をすくめて言うと、泉ちゃんは少しだけ笑った。  今日は…泉ちゃんに呼び出された。  家に電話がかかって来て。  それをあたしが取ると。 『二階堂 泉といいます。咲華さんいらっしゃいますか?』  凛とした、ハッキリとした口調だった。  待ち合わせのカナール。  あたしは初めて来たけど…感じのいいお店だな。  つい、キョロキョロしてしまった。  クリスマス前とあって、店内に飾られたツリーに、何となくテンションが上がる。 「(ひがし)から、色々聞きました。」 「…はい。」 「彼の仕事がどんなに大変か…ご理解いただけますか?」  泉ちゃんはスーツ姿。  って事は…今は仕事中なんだよね… 「…理解、したいと思います。」 「危険を伴う仕事だと言う事も?」 「はい。」 「もしかしたら、明日にでも命を落とす可能性がある。そんな仕事です。」 「…はい。」 「それでも…気持ちは変わりませんか?」  泉ちゃんは、真っ直ぐにあたしを見ていた。  あたしも…それに応えた。 「変わりません。」  あたしの言葉に、泉ちゃんの表情が少しだけ柔らかくなった。 「…あたし達、小さい頃からずっと一緒でした。」 「……」 「瞬平と薫平、そして志麻…三人が、自分が泉ちゃんをお嫁さんにするんだ。って、よくケンカになってました。」  それは簡単に思い描けてしまえる光景だった。  微笑ましくて…つい、口元が緩む。 「たぶん、うちの父が…母の護衛をしていた身でありながら、結婚にこぎつけたので…二階堂の中では夢見てる輩も少なくないと思います。」 「そうでしょうね。」 「あの三人は…あたしにとって特別です。」 「……」 「二階堂は古くから、秘密組織として動いて来ましたが…」  泉ちゃんはカップの中を見ていた。  照明がボンヤリと映る紅茶。 「あたしと兄は、今の二階堂の在り方を変えようと思ってます。」  その瞬間、泉ちゃんは…とても強い目であたしを見た。  …信じられる目だった。  あたしはそれに、頷いた。  どうか、と。  気持をこめて。 「兄とあたしが…その夢をかなえる時…志麻にはそばにいて欲しいんです。」  特別な三人のうち…  一人は二階堂を辞めてしまった。  そして…一人はしーくんの代わりにドイツに行こうとしている。 「…はい。」 「どうか、志麻が毎回現場から帰って来たいと強い集中力と気持を持って仕事ができるよう…志麻の事、よろしくお願いします。」  泉ちゃんはそう言って、あたしに頭を下げた。 「…こちらこそ、宜しくお願いします。」  二人で頭を下げ合って。  顔を上げた時は…少し笑い合った。 「聖に我儘言われてない?」 「我儘は言わないけど、偉そう。」 「あっ、分かる分かる。聖って、誰に対しても少し上から目線だし。」 「あははは。」  一時間を過ぎると、あたしは敬語じゃなくなった。  そして、恋の話になる頃には、ケーキを注文して、紅茶のお代わりもした。 「でも料理が上手くて。」 「ああ…聖、結構キッチンに立ってるもの。」 「サッカさんは料理できる?」 「一応するけど、これ!!って得意料理がなくて…」 「あたしは料理すらできない…」  特別な仕事をしていても。  恋をすれば条件は同じ。  誰かのために、何かをしたい。  聖のために、クリスマスプレゼントを悩んでる。と笑う泉ちゃんは。  あたしと同じだ。 「あたし、一月から三ヶ月ほどアメリカなんです。」 「三ヶ月も?」 「聖が浮気しないよう、見張ってて下さいね。」 「…結婚は?」 「今の所、考えてないけど…」  泉ちゃんは少し遠い目をして。 「聖がもっと幸せになるために、あたしと結婚したいって言うんなら、してもいいかなって思います。」  泉ちゃんって、ボーイッシュなイメージだったけど…  …キュンとしてしまった。  やっぱり、恋ってすごいんだな…。  あの聖が。って言ったら悪いけど。  あの聖が、泉ちゃんを女の子にしてる。  そう思うと。  あたしも…  もっともっと、しーくんに恋したいと思った。
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