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「はじめまして。東 志麻といいます。」  …しーくんは、昨日帰国した。  夜遅くに帰って来て、空港に迎えに行きたかったけど…父さんが家に居て、しかも不機嫌で。  母さんに協力してもらおうかとも思ったけど… 『明日に備えて、早く寝た方がいい。』  しーくんの言葉に…あたしはそうする事にした。 「…何者だ?」  しーくんを前に、父さんは低い声。  今日は父さんと母さん以外は、留守。 「咲華さんと、お付き合いさせていただいてます。」 「いつから。」 「……」  しーくんは一瞬悩んだ感じだった。  …一度別れたし…ね… 「五月からです。」  それでも、キッパリと…付き合い始めた頃を言うと… 「おまえか!咲華に髪を切らせた男は!」  失恋でのイメチェンがバレバレだったのか、父さんはそう言いながら、しーくんに殴りかかった。  だけど…  本能がそうさせたのか、しーくんは受け身を取った。 「あ…す、すみません…」 「…殴らせろ。」 「……」  しーくんは腕を下ろして…目を閉じた。  だけど、そうされると…殴りにくいのか。 「…もういい。」  父さんは、握りしめてた手を下ろした。  ホッとしたのも束の間… 「…よくも可愛い娘を…!」  ガツッ 「ひどいよね…父さん。」 「仕方ないさ…あいたた…」  あたしは縁側で、しーくんの口元を冷やす。  父さんは、渾身の力を込めて…しーくんを殴った。  その後ろで、やれやれ…みたいな顔をした母さんは、すでに冷やしたタオルを持っていた…。 「…嫌にならない?」 「なんで?」 「…ううん。」 「手強い方が、奪い甲斐がある。」  しーくんはそう言って、あたしの頭を抱き寄せた。  すると… 「親の前でイチャつくな!」  背後から、父さんの怒号。 「…千里。」  そこへ…力強い援護が。 「あたしも二人に負けないぐらい、イチャつきたい。」 「…こんな時に、なんだ。」 「だって、千里…悔しくない?」 「……」  眉間にしわが寄ってた父さんは、ニヤニヤを我慢した顔になって。  母さんの腰を抱き寄せた。  そして、チラリとあたし達を見た。 「…ごめん…あんな親で…」  小さな声でそう言うと。  しーくんは優しい顔で二人を見ながら。 「ここは、愛の溢れた家だな…」  涙が出そうなぐらい…心からの声で言ってくれた。 「…一本裏の通りに、マンションが建つぞ。」  母さんの腰を抱き寄せたままの父さんが、あたし達を見て言った。 「…え?」 「近くにいるなら、許す。」 「え?え?本当?」  父さんの言葉に。 「千里、結婚式に着る服考えなきゃ!」  母さんが、父さんに抱きついて、父さんの膝に座った。 「おっおい…まだそこまでは…」 「千里、モーニング似合いそうっ。絶対カッコいいわよね。」  …母さん、それは演技…ではなく、本気ですね?  はしゃぐ母さんを見てると、何だかあたしも嬉しくなって。 「うん。父さん絶対似合うよ。」  父さんに近付くと。 「…おまえら、調子いい事を…」  父さんは、あたしの腰も抱き寄せて。  膝に母さん、右手にあたしでご満悦。  そんな様子を、しーくんは縁側から眺めて。 「…負けませんよ。」  口元を押さえて、不敵な笑み。  一瞬ヒヤッとしたけど。 「いい度胸だ。」  父さんは笑いながらそう言うと。 「離すのは惜しいが…知花、ビール。」  母さんの額に、キスしながら言った。 「…そうね。すぐ用意するわ。」 「父さん…」 「咲華、おまえは家族全員に連絡しろ。」 「え?」 「宴会の用意だ。」  まだお昼にもなってないのに。  我が家では宴が始まって。  次々に呼び出されて帰って来た家族は、寝耳に水の朗報に。 「マジかよ咲華!」  華音はあたしの頭をクシャクシャにして。 「よく説得できたな。」  聖は、しーくんに上から目線。 「お姉ちゃん!おめでとう!」  華月は泣きながら抱き付いて来て… 「あたしのフォローもよろしく…」  なんて、首をすくめて笑った。  おじいちゃまもおばあちゃまも、大おばあちゃまも喜んでくれて。  駆け付けた高原さんも、泣きながらしーくんを抱きしめて… 「もう殴られてるみたいだから、俺は殴らないけど、サッカを泣かせたら容赦しないぞ!」  と、強く強く抱きしめた。 「俺が殴るより、拷問だよな。」  お酒でいい気分になってる父さんが、二人を見ながら大笑いする。  しーくんは、高原さんに抱きしめられたまま、すごく…素敵な笑顔。  ああ…あたし、幸せだ。  本当に。  こんなに、愛の溢れた家に生まれて。  素敵な人に出会えて。  すごく、すごく幸せだ。  きっと、これからも。  しーくん。  あたしとあなたも。  こんな家庭が築きたいな…。  だから…どんな現場に行っても。  あたしの元に、帰って来てね。  23rd 完
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