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最終話
正月気分も終わり通常に動き出した一月中旬。
それは小さな小さなニュースでしかなかったのだ。
うちは新聞が三部入ってくる。
母に頼まれずっととっている宗教団体の新聞、それとある政治団体の新聞、もう一つは、社長が来てから取り始めた経済新聞。
ジュン君は、なんでこっちの二つは部屋まで届けてくれるのに、こっちは下まで行かなきゃいけないのと文句たらたらですが、彼の日課は案外楽しいようです。
ジュースをもらったと、新聞を置いて、手を洗い、自分の席に着きます。
彼が起きてきて新聞を手にしたとき、いつもはあまり見ない政治団体のものを手にしたのです。
なんか怖い顔つきになりました、そのままお爺ちゃんのいるリビングへ行きその新聞を見せました。
何かを二人で話していますが、よくわかりません。
「華ちゃんお代わり!」
こっちのほうがよくわかります。
夜帰ってきた社長は少し怖い顔をしていた。
どうしたの?
正月休みは海外へ出る事を禁止していた。
危惧していたことが起こった。
これは始まりでしかない、パニックはいずれ起きる。
彼はそう言って、おじいちゃんたちに何かを話しています。
「華、もしもの時は会社を休め、子供もいるし年寄りもいる、頼めるか?」
「わかった、でも無理はしないで、お願い」
うんと言う彼。
それから国内最初の患者が出た一月二十二日から、パニックはじりじりと始まりだした。
宗教団体は、何か起きたら必ず名指しで言われる、そのためすべての集会、個人との接触を禁じた。
パンデミックにはならない、インフルエンザより軽いなどというが、情報は錯そう。おじいちゃんたちの乗っていた船は、日本に来ることはなかった、入国拒否され船会社のイギリスに向かって引き返したそうだ。
それはその前に日本の海域にはいってきた船で感染者が見つかったことによるものだった。
船は日本の陸につくことができず、海の上で待機。
死んだ人が出た。
「映画みたいになるのかしら?」
「最悪、自分の身は守らなくてはいけなくなるでしょうね」
「まあ人ごみは避けることだな、ジュン、帰ってきたらうがい手洗いじゃなくて、手洗い、顔洗い、うがいの順番だぞ」
「お顔も洗うの?」
「そうだ、お顔はな、知らないうちに触っているから案外汚れているんだ」
「わかった、手洗い、顔洗い、うがいだね」
「そうだ」
よかった、彼のおかげで、マスクや液体せっけんアルコール消毒なんか最低限人数分ある。花粉が終わる五月まで、なんとか……。
「華」
「はい」
倉庫の前、足りるかと聞かれた。
一人一日一枚、ガーゼのマスクもある、十分、大丈夫。
今は近所の集まりも自粛ムード、何かあってからじゃ遅い、だから避ける、これはみんなで決めたこと。
職場は一番危険な所。
そうじゃない、みんなちゃんとわかっているから自衛はしている。インフルエンザなんかかかったことなんかない。それは清掃でちゃんとばい菌をやっつけるノウハウを知っているからだ。
そうか、すまない。
幼稚園は休みになるかもしれない。
それならその方が安全ではある、子供はどこをさわっているかわからないから。
国から来る予防なんて最低、菌をばらまくなと言うだけの事だ、くしゃみをするときはこうしてくださいという絵が大きく貼られている、でもその先を教えなきゃ。
菌をさわらない、持ち帰らないというのも入れないといけない。
働いている人、会社に出入りする人たちすべてに清掃部の部長やリーダーさんたちと社長で作った予防対策のプリントが配られた。
海外へ出た人、海外へ行った人との接触をした人は隠さず申告してほしい。
そしてマスクは社員全員の分を確保、一か月乗り切ってほしい。
だがバカな社員はいる者で、ネットで高く売った者もいた。
そんなのは首にしろというけど冷静に、今は、社員の命の事を考えましょう。
アジアから引き揚げてきた人たちからは感染者は出ていない、おじいちゃんおばあちゃんも何も出ていない。
それだけで良しとしましょう。
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