第一話

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第一話

東京。 車から見る風景はどこも変わるような感じはしなかった。 ただ、だんだんと山が消え、高い建物しか見えなくなっていった。 懐かしいだろ? この町の喧騒だけは変わっていないと誰かが言った。 私が暮らした町、そう言われるのを受け入れるしかない。 元号が変わったそうだ。 でも私は何も変われないでいる。 変わったのは環境で、そして私の細胞は一年で衰え、年老いて、この世から消えうせるだけ。 今年も終わったという。 終わったのはカレンダーだけで、又新しいカレンダーを付け替えれば一年が始まる。 何も終わっていない。 数字だけが毎日24時間の終わりを告げ、カレンダーの日付だけが更新されていく。また明日も同じようにお日様は昇だけなのに……。 何も変わらない毎日。 ただ季節だけはめぐってくるのを肌で感じた。 はあ。 車を降りれば刺さる程の太陽の暑さが痛いのに、今この中は涼しいのを通り越して寒い。 吐く息が白い。 窓ガラスに吐く白い息に、震える指を伸ばし、丸を書き、点を入れていく。 これが何なのかはわからない、でもなんとなく書いていた。 すぐに消えていくもの。 頭をゴツンと当てた。 疲れたか?まだかかるんだ、次で休憩しよう。 高速道路をひた走る。 都会に向けて。 ――過去。 昨日の事は振り返らない。 ――未来。 望む事は何もない。 ――現在。 今、ここにいることだけを感謝してただ生きる。 ――生きる。 生きる意味。 わからない。 ただ私の手というものを握り、生きているだけでいいと泣いてくれた人たちがいた。 ああ、この人たちを泣かせたらだめなんだと思った。
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