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――彼女が彼に出逢ったのは、誰もいない海だった。
お盆直前の夜の海。
今年は猛暑だった為、いつもよりクラゲの発生も早く、一般の海水浴客は殆ど見かけなくなっていた。
大海は仕事を終え、夜の海に一人、ふらっとサーフボードを持って現れた。
ナイトサーフィンは視界が悪く明かりは不可欠で、彼は満月の時にだけ、仲間や父親と訪れていた。
(今日、彼は一人きりなんだ)
彼女は、いつもこっそり水中からを大海を眺めていたので、今日は、いつもと何かが違うと感じていた。
大海がボードを上手くコントロールできずに水中に落ちてくる。
彼女が、こんなに真近に彼を見るのは初めてだった。
大海は波に抵抗することもなく、静かに目を閉じていた。
長い睫毛から小さな水泡が立ち昇っていく。
彼から生み出されたものは水泡さえ美しいのだと、彼女は目を奪われた。
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