1人が本棚に入れています
本棚に追加
波に抵抗することもなく静かに沈んでいく彼は、やはり不自然で、彼女は嫌われることも覚悟の上で、必死に触手で彼の手に触れた。
(起きて! 起きて!! お願いだから……)
彼女の願いが届いたのか、それとも触手で刺された痛みを感じたのか、大海は藻掻きながら水面に顔を出す。
――ゲホッゲホッ。
クラゲの彼女が手を貸せるのは、ここまで。
水中から出られない為、只々、彼の無事を祈るしかない。
彼女は必死に体を動かしてしまったせいか、自らの体力を使い果たしてしまっていた。
(ああ、またか)
彼女は今までに何度も同じサイクルを繰り返し、幾年も変わり映えのしない海を漂ってきた。
ずっと『老いては若返る』を繰り返すだけ……
薄れゆく意識の中で、彼女は、もう一度だけ彼に逢いたいと願っていた。
最初のコメントを投稿しよう!