たゆたう恋

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波に抵抗することもなく静かに沈んでいく彼は、やはり不自然で、彼女は嫌われることも覚悟の上で、必死に触手で彼の手に触れた。 (起きて! 起きて!! お願いだから……) 彼女の願いが届いたのか、それとも触手で刺された痛みを感じたのか、大海(ひろみ)藻掻(もが)きながら水面に顔を出す。 ――ゲホッゲホッ。 クラゲの彼女が手を貸せるのは、ここまで。 水中から出られない為、只々、彼の無事を祈るしかない。 彼女は必死に体を動かしてしまったせいか、自らの体力を使い果たしてしまっていた。 (ああ、またか) 彼女は今までに何度も同じサイクルを繰り返し、幾年も変わり映えのしない海を漂ってきた。 ずっと『老いては若返る』を繰り返すだけ…… 薄れゆく意識の中で、彼女は、もう一度だけ彼に逢いたいと願っていた。
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