たゆたう恋

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若返りをする特殊なメカニズムにより生まれ変わった彼女は、海水浴シーズンを過ぎて、人けのない海岸近くの浅瀬を漂っていた。 突然(すく)い上げられた皺くちゃの手の中で、彼女は必死に藻掻(もが)いた。 「ん? お前……」 彼女は海水の入った小さな瓶に入れられる。 窮屈で逃げ出そうとするが、何処を泳いでも行き止まりで為す術がない。 諦めて大人しくしていると、先程、彼女を(すく)い上げた男は、そのまま瓶ごと彼女を何処かへ連れて帰った。 (こんな狭い所で生きるのは嫌だ!) 皺くちゃの手の持ち主は、顔にも年相応の皺が刻まれ、そんな男を見て彼女は少し哀れんだ。 (この人は随分と退化しているけれど、この先、私達と同じように若返るのだろうか?) そんな疑問が頭に浮かんだのも束の間、彼女は先程の小さな瓶から、少し大きめの人工海水が入った水槽へ、ウォータースライダーを滑り下りるように勢いよく移された。 (キャー!!) 彼女の言葉は声にはならず、ここで生きていくしかないと諦めてしまう。 「おお、美しい!」 男が水槽の中の彼女を賞賛している。 彼女は男が何を言っているのか理解できなかったが、その独特の雰囲気から底気味悪さを感じていた。 彼女が男の様子を観察していると、彼は彼女を目で追いながらノートのようなものに、つらつらと何か綴っていた。 この場所は男の研究室で、彼女(若返りを繰り返す品種のクラゲ)を研究対象として、この水槽に閉じ込めたのだった。 彼は、この品種のクラゲが若返りをする特性に目を付け、人間でも行えるよう、老化した細胞の遺伝子の活性化にクラゲの染色体修復システムを応用しようと考えのだ。
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