あなたの体温と手と花火

1/1
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
隣のあなたの体温を感じる。 一年ぶりに着る浴衣。薄い生地越しに触れる彼の腕は、温かかった。 彼は「迷子になるよ」と手を繋いだ。 下駄をカランコロンと鳴らしながら歩くと、小さい頃に戻った気がして、一気にたのしくなった。 わたしと彼は、花火大会の会場に着いた。 思いっきり日差しを浴びた草むらは、夜7時を過ぎても冷えることはなく、ビニールシートを敷いた上に腰を下ろしても、熱気を感じた。 繋いだ手を離すことはなく、もう片方の手でうちわを仰ぐ。額から汗がつうっと流れ落ちた。 時折川辺から涼しい風が吹くが、湿気を含んだ闇が人々を包む。 花火は惜しむことなく夜空を彩り始め、火薬の匂いがあたり一面に広がった。 花火大会はクライマックスへ向かい、間髪入れずに花火がどんどん上がっていく。あと数分で花火大会は終わりとなる。 これ以上漆黒の空を染められないというくらい花火で埋められていく。 隣の彼をふとみると、視線が絡まった。彼の顔が近づく。 わたしには、もう花火の音しか聞こえないけれど、閉じたまぶたの裏には大輪の花火が上りつづける。 ねえ、このまま……、キスして。あと5分待って。花火よ、終わらないで。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!