神兵の信念

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二人は新兵領域に戻り、食堂で昼食を取る。 腹が減っては戦は出来ぬと言うが、予感に駆り立てられたすいれんは食事さえまどろっこしく思う。 あまり腹に物を溜める気にはならず、たまご粥を選んだ。先輩から風邪でも引いたのか? と茶化されるも、あまり派手な物を食べ続けると体が鈍るんだよ、なんて言ってやる。 「書類仕事ならともかく、動き回るんですからとんかつやオムライスなんて重い物は避けますよね」 りんどうは味噌汁の入った茶碗を持ちながら理解を示してくれた。 すいれんの中では胃の隙間を押しつぶす勢いで戦意が突き上げてくる。食欲なんてものはなかったが、なんとかかきこんで空になった食器を返すのだった。 助言を思い出しながら、足を進めさせる。 「りんどう、ここを調べよう」 すいれんが立ち並ぶ建物を眺める中、どうしようもなく目に付いたのが玩具屋だった。なんの変哲もない店構えだが、調べれば人生論者の痕跡が出てくる気がした。 「……ここを調べてどうするんですか? 何もおかしいところはありませんし、人生論者に関係あるとは思えません。いくら子供が神を敬わないからと言っても……」 「もしかして思い入れのある店なの?」 「いえ、そう言うわけでは……」 りんどうは苦しそうに視線を落とした。 「……あ、あの店客に対して丹耀銭を挙げていました!人生論者の集会の目印です!」 丹耀銭とは最大の通貨である。真鍮製で、見た目はいいものの価値はそれほど高くない。そのことから人に崇められているだけで実際には役に立たない、他にも質が良く偽造の難しい通貨があるのに神に関する逸話があるため使い続けることから、神に従っているだけで自らの力で発展することを忘れた、などの意味を込めている。 しかし人生論者の間にはもっと有名な目印があった。一番過激な組織のシンボルが……。 しかしまだ見つけていない証拠を探すよりも、今見つけた人生論者を追う方が正しいのかもしれない。りんどうの発見を優先し、乾物屋へ向かうことにした。 乾物屋に入ると棚には商品が並んでおり、そこだけ見れば何もおかしいとは思わない。しかし通り土間の床には小さな酒瓶が転がっており、一段上がった床には柄の悪い男が一人腰掛けている。 乾物屋としてまともに商売しているようには見えなかった。 しかし男の態度が異様で、神兵を見れば人生論者は慌てて逃げ出し普通の人々なら敬意を示して一声かけるところ、二人の姿を認めるとニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてくる。 すいれんは家宅捜索に来たことを伝えようとしたが、先んじてりんどうが一歩前に出ると右手の指を三本立てて見せる。 男は分かったというように頷き、手で自分の後ろの戸を指し示した。 すいれんは何がなんだかわからないまま、床に上がるりんどうに続く。 ガラス戸の向こうからお決まりの口上が聞こえてくる。今日の調査が空振りに終わらないことを悟る。 すいれんは外の穢れを持ち込まないように、支給された下駄袋に靴を入れるが、りんどうは土足で上がり小気味いい音を立てて戸を開く。
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