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二.
急カーブも多い山間の道を、アトラクションかと思うような運転で走るスポーツカーの助手席から珍しげに眺めていると、
「なかなかの景色だろ。これでも東京なんだぜ。で……これが奥多摩湖な。お前んとこのウナギの湖に比べたら全然大したもんでもねぇけど」
丸太のような太い腕から繰り出す華麗な手さばきでシフトレバーとハンドルを操りながら、ふいに視界に現れた水面を顎で示して言った康明叔父さんが、
「けど、こっちにゃクマがいるぜ。でけぇツキノワグマがな」
薄く笑いながらそう続けた。
「どこにいるのかなぁ、ここから見えるかなぁ」
父さんには「もう一人旅ぐらいしてもいい歳だよ、友達だってけっこうやってるんだよ」などと言ってあったが、実はこの旅の本当の目的はクマを見ること、そしてできればクマを狩る現場に同行することだった。
奥多摩湖は縦長の湖で、幅もそれほど広くは無いため、はっきりと見て取れる、深い木々に覆われとても人が入れる余地など無さそうな対岸に、その中を歩くクマの姿を探していると、
「こっからじゃまぁ見れねぇだろうけど、見てぇなら見てみるか?今朝ちょうど近場に出たってんで、会に駆除依頼が来てんだ。本当はサボるつもりだったけど、お前が行きてぇってんなら連れてってやるぜ」
湖に架かった橋の手前で右に曲がりさらなる山道へと車を進めながら、叔父さんが少し楽しげに言った。
「ほんとに!?やった!!すごい!!やっぱり一人で来て良かった!!父さんが一緒だったら絶対行かせてもらえないもんな!!」
思わず叔父さんを振り返ってガッツポーズをしたものの、その拳が低い天井に派手にぶつかり、痛がる僕を叔父さんが笑った。
康明叔父さんは二十歳になってすぐに狩猟免許を取って東京の猟友会に入り、奥多摩で一人暮らしを始めたという。
「こそこそ違法な真似なんかしねぇでも堂々と銃が撃てて、大した稼ぎじゃねぇが金ももらえんだぜ。超アガるっつーの」
過去に僕の家に来た時に、そう前置きをしてからこれまでの狩りの話を缶ビール片手に熱く語ってくれた叔父さんに、何の刺激も無いただの子供の暮らしをしているだけの僕は、ものすごく興奮して夜も眠れなくなったのを覚えている。
叔父さんは狩りだけでなく、仕留めた動物も自分で捌いて地元の飲食店に売ったり、自分でも食べたりするという。
そんなことが同じ日本で行われているなんてとても信じられなかったが、臨場感に溢れた叔父さんの話術にも引き込まれ、いつしか僕も狩りがしたいと密かに思うようになっていた。
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