序章

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 次に白羽の矢が上がった候補は二人。 藤原通宝の嫡男である藤原伊州(ふじわらの いしゅう)、弱冠二十二歳にして内大臣の官位を持つ文武両道の優秀な男である。しかし、その若さから妬まれることが多く政敵も少なくない、政敵たちは伊州のことを「親父のコネで内大臣になった莫迦梵梵」と陰口を叩く。妹は中三谷定子(なかみやの さだこ)、御華門の正妻である。 つまり、御華門の義理の兄である。 かつての改新に参加した藤原氏の血筋で今や御華門の義理の兄と言う立場、見た目も極めて美形の貴公子で内裏内の女官からは圧倒的な人気、弓の腕前も海道一の弓取り(ただし、駿州の国とは縁もゆかりも無い)と称される程の腕前で御華門に弓の指導を頼まれる程。 欠点が無いのが欠点と言うぐらいに完璧な男であった。 もう一人の候補は、藤原通宝の弟である藤原道永(ふじわらの みちなが)、三十歳にして大納言の地位に甘んじていた、父である藤原周家(ふじわらの かねいえ)が摂政として政治の中枢にいたことを考えると出世コースから離れており(まつりごと)においては冷や飯食いの状態、常日頃から鬱屈しているのであった。甥の伊州が自分より上の官位を持っていることは彼の心に強い劣等感(コンプレックス)を抱かせている。 かつての改新に参加した藤原氏の血筋で今や御華門の叔父と言う立場、伊州の若さと才能に嫉妬する男子(おのこ)貴族からの人気は抜群、体を動かすことは苦手で剣も弓もからきし(しかし、賭弓にて図星を当てた記録はある)であったが(まつりごと)や風流ごとに関しては伊州よりも一枚も二枚も優れている。 この二人、極めて仲が悪い。叔父と甥と言う薄いながらに同じ血を持つ二人でありながら極めて仲が悪い。道永も伊州も当初こそ仲が良かったのだが、伊州が内大臣となった頃から道永は一方的に妬みを強くし、辛く当たるようになってきた。(まつりごと)の公家会議(国会予算会議のようなもの)で口論が激しくなり殴り合い取っ組み合いの喧嘩になることは日常茶飯事であった。
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