序章

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 御華門もどちらを関白にするかお決めになることが出来ずに頭をお抱えになられていた。 右大臣左大臣に相談をしても「どちらも優秀」とどっち付かずの意見しか返ってこない。 目についた女官に尋ねてみれば伊州寄りの意見ばかり、男子(おのこ)貴族に尋ねてみれば道永寄りの意見ばかり、全くの半々であった。 御華門には一番相談したい相手がいたのだが、その相談相手は屋敷を空けての旅行中、仕方なく相談相手の屋敷の食客として居座る「虎」に尋ねたのだが「私は人の(まつりごと)に介入しません」と言われてしまった、この「虎」は人であった時、科挙を突破した賢者であるのだから適切な助言の一つもくれればいいのに…… 御華門は「虎」のゴロゴロと鳴る喉を撫でながらこんな事をお考えになられるのであった。 このように伊州と道永の関白の座の争いは太極図のように白黒どっち付かずとなり均衡の体を成していた。 先に手を打ったのは道永だった。自らの姉に「私はどうしても関白になりたいのです! 偏に! 偏に! 世のため人のため! 皆が幸せに心安く暮らせるように関白に!」と熱弁を振るう。その熱弁に心を打たれた道永の姉は御華門の元へと直談判に向かうのであった。 道永の姉は三仙院大鏡子(さんぜんいん おおかがみこ)、御華門の実の母で母后、つまり国母である。それも現時点での御華門の母であるために大国母の立場であった。御華門も血と肉と骨を分け与えられた母の意見には逆らうことは出来ない。それに大鏡子は弟である道永のことを深く深く愛している。道永の熱弁が無くとも「次の関白は道永!」と自らの息子である御華門に交渉をするつもりであった。
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