プロローグ 幼少期の、ある朝の出来事

2/3
384人が本棚に入れています
本棚に追加
/297ページ
 (トラップ)の材料は、熟したバナナと焼酎、ドライイーストを混ぜたもの。  それらを容器に入れ、夜のうちに木の根元に置いておく。そうすると、匂いにつられてカブトムシがやってくる。 「これ、『バナナトラップ』って言うんだってさ」  焼酎やドライイーストを混ぜるのは、発酵をうながすためだ。カブトムシは夜行性で、嗅覚が発達している。果物の濃厚な匂いが、甘いものが大好物なカブトムシを引き寄せたのだ。 「あっちゃん、物知りだね!」  きらきらした瞳でそう言ったのは、篤志の幼なじみ、甘野 歩夢(あまの あゆむ)だ。  ふわふわの栗色の髪。  ぱっちりした瞳。  ふんわりした笑顔。  のちにオメガであることが判明する彼は、少女と見紛うほどのかわいらしい容姿をしていた。性格はおっとりしていて優しい。篤志は尊敬と同時に威圧感をいだかせることが多いが、歩夢は正反対。どんな人でもリラックスさせてしまう雰囲気を持っていた。  15才になると『性質検査』が行われ、アルファ・ベータ・オメガといった性質が判明する。まだ自分の性質を知らない二人だが、8才にして、徐々にアルファ・オメガである特徴を垣間見せ始めていた。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!