プロローグ 幼少期の、ある朝の出来事

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プロローグ 幼少期の、ある朝の出来事

 お盆を過ぎ、夏休みの終わりが近づいてくる。  初秋の風が吹く、朝焼けの空の下。  ラジオ体操が始まる15分前。  少年たちが、公園の一角に集まっていた。 「いた、カブトムシ!」  角のついたオス。しかも大きい。  少年たちは興奮でどよめいた。  中心にいた黒髪の少年が、カブトムシをつまみ上げた。まるで宝石商のようにうやうやしい手つきで。  男児たちにとって、カブトムシは黒いダイヤモンドだ。尊敬のまなざしが、その黒髪の少年に集中する。 「あっちゃん、すげーな」  あっちゃん、と呼ばれた黒髪の少年…朝賀 篤志(あさが あつし)…は、照れ臭そうに鼻をこする。のちにアルファであることが判明する彼は、きりっとした端正な顔つきの少年だ。勉強も運動も人並み以上にできるため、皆から一目置かれる存在だった。 「どうやって捕まえたんだよ」  篤志は得意げに笑って、クヌギの木の下に置いていたものを、意気揚々とみんなに見せた。 「カブトムシ用の(トラップ)を仕掛けておいたんだ」
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