2.秘密

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「……うそ」  夫から不妊を告げられた場合妻がどんな反応を示すのか、ネットで調べてみたが分からなかった。どの夫婦も、まずは妻が検査をする。夫だけが検査をする夫婦を、雅知はネット上で探すことはできなかった。  薫の反応は、妥当に見えた。雅知が不妊だなんて、考えたこともなかったろう。 「で、でも! 人工授精とかすれば、大丈夫だよね? そうすれば、まさくんの赤ちゃん生むことできるよね」 「治療はしないよ」 「なんで! あ、ああ分かった。まさくんだけじゃなくて、私も検査したほうがいいよね。明日でも、病院に行って……」 「薫が病院に行く必要はないよ。検査も、治療も必要ない。二人でいいじゃないか。姉さんや陽治さんたちみたいに、子どもがいなくても仲良くやっている夫婦はいるだろう」  薫の手が震えている。ここまでは、想定範囲内だ。薫が欲しがっているのは『子ども』だ。でも、雅知では薫の身体に負担を強いなければ、子どもを抱かせてやることはできない。 「いやよ、私は子どもが欲しいもの」  雅知は、手にしていたカップを置くと薫を真っ直ぐに見た。 「だったら、俺たちは別れたほうがいい。俺は、薫に検査も治療もさせたくない。俺といれば、子どもは望めないよ」  薫の顔色が青くなった。一瞬虚ろげに揺れた薫の瞳に色が戻ったが、このときの雅知には分かりそうで分からなかった。 「そう。分かった」  もっと荒れると思った薫は、思いのほか冷静だった。  このあとは、何もことばを交わさずに、薫は小さな口に焼き菓子を運んだ。  翌日から、薫の機嫌は日に日に悪くなっていた。
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