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それからというもの、機嫌の悪い薫から、いつ離婚を切り出されるのか、平静を装いながらも内心は穏やかではなかった。自分から別れたほうがいいと言い出したのに、来る審判の日に心を乱すなど、なんて小心者かと苦笑するも、落ち着くことはなかった。
でも、いまだに審判の日は来ていない。
薫の口数は減り、確かに機嫌は悪くなった。でもなぜか、機嫌のよい夜は雅知の腕に抱かれたがった。薫から求められて、雅知が断ることはなかった。断られた薫の気持ちを考えると、どんなに眠くても疲れていても、薫の求めに応じた。逆もまた然りで、断る薫の気持ちを考えると、雅知から求めることはなかった。
結婚してから一度も避妊をしたことはない。それでも、子どもができない現実を、最中に考えることがあった。萎えそうになる気持ちと身体を、気持ちよさそうに喘ぎ目を閉じる薫に集中させて持ち堪えた。
雅知にとって、薫が全てだった。
だからこそ、薫を妊娠させられない自分がいやでいやで、遠くに逃げたいと思うこともしばしばあった。雅知の気持ちは限界だった。
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