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五年間、そう思っては裏切られてきた。万知も来月には三十五歳、いわゆるアラフォーだ。陽治の子どもがほしいが、もう無理なのかもしれない。もう二度と、万知は触れてもらえないかもしれない。
このままでは、万知の女としての価値が、どんどんと下がっていくように思えた。姿の見えない黒い呪いのようなものに追い詰められ、どこからともなく湧き上がる焦燥にかられる。
万知は、呪いから逃れるように頭を振ると、スマートフォンを操作した。カメラのマークをタップすると、写真共有サービスのSNSアプリを開いた。
それは、世界中の何十億人が登録しているアプリで、万知も利用していた。芸能人の投稿を見たり気に入ったものがあればフォローしていた。
ある日、猫の写真を見ていると、シアンとそっくりの猫を見つけた。アカウントは、shian_k。どう見てもシアンにしか見えない。お腹の辺りの黒縁の出方が全く同じだった。絶対にシアンだと思った。kは薫だろう。万知はシアン見たさにこっそりとフォローをした。
桜町駅まではもう少しかかる。万知は薫のアカウントをチェックした。シアンの姿を見て、底なし沼にはまりそうな気持ちを上げようと考えた。
薫は、朝イチで昨日の出来事を上げるのが日課のようだったが、今朝はまだシアンの姿がアップされていなかった。
ああ、そうか、万知はバスの中こっそりと膝を打った。陽治もまだ寝ているぐらいだ、出勤時間は万知よりもだいぶ遅いのだろう。それでもこんなに遅いのは珍しい。昨夜はそんなに飲んで帰ってきたのかと、雅知の姉として半分呆れながら、芸能人などのアカウントを一通りチェックし、最後にもう一度薫のアカウントをチェックした。
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