3.転機

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 そこには、最新のシアンがアップされていた。前足で顔を撫でる仕草のシアンと、今回はぐっすり眠るシアンの動画もあった。万知は、可愛いシアンの姿に目を細めた。近々、シアンと遊ぶために実家に行こう、万知は眠るシアンを見ながら、微笑んだ。  薫は目が大きくて可愛らしい顔をしている。一見、人当たりはよさそうだが、ときどき見せる言動や仕草に、どことなく万知は相容れない部分を感じていた。母も同じように感じていたようで、万知に愚痴をこぼすたびに「優しい雅知は騙された」と言っていた。それでも、こうやってシアンの写真をSNSに載せたり、可愛がってくれていることはありがたかったし、なるべく偏見の目で見ないように万知は気をつけてはいた。  でも、実家に行くのはできるだけ薫のいない日にしたいと、心の中で思っていた。  薫はいつもSNSに複数枚アップする。今回は動画を含めて三枚アップされていた。最後の一枚を確認するためスワイプすると、おしゃれに盛り付けられた料理の写真が出てきた。  どこかのレストランのようだ。魚のカルパッチョと共にサングリアのグラスが映しだされていた。昨夜の食事だろうか。それとも、以前に雅知とデートしたときの写真だろうか。雅知は薫を心から愛しているし大切にしている。姉から見ても、それはよく分かった。  母は雅知と薫がうまくいっていないらしいなんて話していたが、万知はそんなことはないように感じた。  バスの車内アナウンスが流れた。次が終点の桜町駅前だ。万知はスマートフォンをしまいながら、今夜も陽治の帰りが遅そうなら、貫治の店に行ってみようと思いついた。
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