3.転機

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「いやね。すっかり老け込んだような言い方しないでよ。樋口さんは雅知くんと同い年でしょう」 「そうだよ」 「たった二つしか違わないじゃない」 「年齢じゃないの。こう、なんていうの、未来っていうかさエネルギーっていうかさ。眩しいよね」  万知から見れば、翔太も、由香里も、雅知も、薫も、自分以外のすべての人間は、輝いて見えた。万知だって輝いている。そう思おうとして、明るいメイクをしようと鏡を覗くも、万知の映る鏡は、いつも曇っていた。 「万知。万知だって眩しいよ。結婚してからすごい幸せそうだもの」  他人から見れば、万知も輝いているように見えるらしい。本当は、放つ光なんて僅かも残っていないのに、滑稽な話だ。結婚してから幸せそうか、万知は由香里に笑顔を向けた。 「由香里は、年上の彼と幸せそうね」  言ったあとに、由香里はでなく由香里もと、言えばよかったと反省した。万知が不幸なのではと、由香里に心配をかけさせてはいけない。  そんな思いを周りを窺った由香里が、口元に手を当てて声を潜めた。 「実はね、プロポーズされたの」 「おめでとう!」  突然の吉報に、万知は嬉しくてパチンと手を叩いた。喜ぶ万知を見て、由香里が照れくさそうに顔をしかめた。 「由香里も奥さんになるのね。結婚式は?」 「身内だけでしようかなって話してるの」 「そっか。じゃあさ、みんなでお祝いに食事に行こうよ」 「うん。ありがとう、万知」  何か問題があるのだろうか。年上の彼は、束縛がキツかったり、意地悪だったり、陽治のように浮気したりするのだろうか。万知は由香里の横顔を見ながら、なぜ寂しそうに笑うのか、その意味を考えた。
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