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「いやね。すっかり老け込んだような言い方しないでよ。樋口さんは雅知くんと同い年でしょう」
「そうだよ」
「たった二つしか違わないじゃない」
「年齢じゃないの。こう、なんていうの、未来っていうかさエネルギーっていうかさ。眩しいよね」
万知から見れば、翔太も、由香里も、雅知も、薫も、自分以外のすべての人間は、輝いて見えた。万知だって輝いている。そう思おうとして、明るいメイクをしようと鏡を覗くも、万知の映る鏡は、いつも曇っていた。
「万知。万知だって眩しいよ。結婚してからすごい幸せそうだもの」
他人から見れば、万知も輝いているように見えるらしい。本当は、放つ光なんて僅かも残っていないのに、滑稽な話だ。結婚してから幸せそうか、万知は由香里に笑顔を向けた。
「由香里は、年上の彼と幸せそうね」
言ったあとに、由香里はでなく由香里もと、言えばよかったと反省した。万知が不幸なのではと、由香里に心配をかけさせてはいけない。
そんな思いを周りを窺った由香里が、口元に手を当てて声を潜めた。
「実はね、プロポーズされたの」
「おめでとう!」
突然の吉報に、万知は嬉しくてパチンと手を叩いた。喜ぶ万知を見て、由香里が照れくさそうに顔をしかめた。
「由香里も奥さんになるのね。結婚式は?」
「身内だけでしようかなって話してるの」
「そっか。じゃあさ、みんなでお祝いに食事に行こうよ」
「うん。ありがとう、万知」
何か問題があるのだろうか。年上の彼は、束縛がキツかったり、意地悪だったり、陽治のように浮気したりするのだろうか。万知は由香里の横顔を見ながら、なぜ寂しそうに笑うのか、その意味を考えた。
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