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二人の出会いは出会いは、仕事にも慣れてきた二十五歳のときの地元の夏祭りだった。
「万知、こんなに食べきれる?」
「うん。一本は雅知にあげて、もう一本はお母さんにあげよう。あ、ゆきちゃん食べたい?」
「いいよ、私も買ったもん」
万知は、友人の山中ゆきと二人で訪れていた。ゆきは高校の同級生で、仕事の都合でこれなかった安井由香里と原田美央と四人で今でも仲良かった。
ぱちんこのクジでりんご飴を三本当てた万知は上機嫌だった。いつも一本しか当たらなくて、絶対に、当たらないように何か仕掛けがあるのだと、幼いころから疑っていた。それが、今夜はものの見事に三の穴に木製の玉が落ちた。疑い続けて申し訳なかったと思いながらも、このりんご飴たちをどう持って帰ろうか、万知は思案していた。
「万知ちゃん!」
聞き覚えのある声に、万知は後ろを振り返った。手を振りながら駆け寄ってきたのは、万知の弟である保谷雅知の高校からの親友、佐川貫治だった。
「ああ、貫治くん! あれ、雅知と来てるんじゃないの?」
「雅知と翔太とはさっき別れたんだ」
貫治と雅知と話に出た翔太は同じ高校を卒業し、今も仲が良かった。
万知は、貫治のとなりにいる背の高い男を見上げた。初めて見る顔だった。
「あ、俺の兄ちゃん」
貫治には万知と同い年の兄がいると、雅知から聞いたことがあった。雅知と翔太の話では、かなりのイケメンだということだった。
「君が万知さんか。貫治から話を聞いて一度会いたいと思ってたんだ。弟がいつもお世話になってます、兄の陽治です」
太陽のように笑う陽治に、万知の視線は釘付けになった。きれいな長い指、がっしりとした肩、長いまつげに触れる素直な前髪。
りんご飴を両手に持つ万知は、一瞬で恋に落ちた。
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