4.義弟

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 万知が貫治に初めて会ったのは、万知が高校三年生、貫治が高校一年生の梅雨の走りのころだった。  その日は生理痛がひどくて、万知は学校を休んだ。仕事に行く前に母が作っていったチャーハンを食べて遅い昼ご飯を終えたころ、雅知が帰ってきた。 「姉さん大丈夫?」と、青い顔の万知を見て、心配そうに雅知は自分のパーカーを掛けた。後ろから顔を覗かせたのが、貫治だった。  華奢な体つきで、大きめに作ったのであろう、詰め襟の制服に着られてる感のある貫治の顔は、今よりももっと少年らしさが残っていた。  今ではすっかり大人の顔だ。長いまつげに肌もツルツルで、女の万知よりもずっと女らしい。万知にメイク指導をするほど、メイクもうまいしセンスもよかった。  他愛のない話をしていても、万知に寄り添い考えくれる。優しい貫治と話すことは、万知にとってストレス解消になっていた。  仕事を始める前に交わした陽治との約束の一つに、夕方五時には仕事を終えて真っ直ぐ家に帰るというものがある。しかし、それを守ると、貫治の店に寄ることはかなわない。そこで万知は、月に一度か二度、四時上がりの日を作ってもらないかと、由香里に相談した。由香里は、二つ返事で了承した。四時上がりで、なおかつ陽治の帰りの遅い日、つまりは、陽治に浮気疑惑があるときは、自然と貫治の店へと向かうようになった。  そんな万知を、五時間も早く店を開けて、貫治は迎えた。 「ごめんね、貫治くん。今日も早くに開けてもらって」 「いいんだよ、万知ちゃんの頼みなら何時にだって店を開けるよ」  ナチュラルメイクで微笑む貫治を、どんな女性よりも女性らしく美しい。貫治は女言葉を使わないし、自分のことを僕という。きっとそれは、男であってほしいと望む母のためなのだろうと、万知は感じていた。
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