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口を閉ざした万知の顔をまたしても翔太が覗き込んだ。まるで恋人同士のような距離に、万知は驚いて仰け反った。
「万知ちゃんは大丈夫?」
心配そうな翔太の顔を見て、仰け反ったのはやり過ぎだったかと、申し訳ない気持ちになった。
「シアンのこと、可愛がってたでしょう。心配だよね」
もし、陽治にシアンの話をしたら、なんて言うだろうかと万知は考えた。きっと、危ないからと、しばらく実家へ行くのを禁止され、へたをしたらパートの仕事さえも休まされかねない。
翔太と同じように、万知を心配しているのはわかる。でも、万知は、心配して束縛されたいわけではない。翔太のように、不安な気持ちに寄り添ってほしいだけだ。
「うん……心配だけど、でも、私にはどうしようもないから」
「雅知んちの近くに住んでるヤツがいるんだ。他の公園でもそういうことが起きてないかとか、地元の友達に聞いてみるよ」
翔太は来たときと同じようにニカッと笑うと、な? と貫治に視線を移した。
「僕も聞いてみるよ」
「翔太くんも貫治くんもありがとう。よろしくお願いします。雅知はお母さんや薫ちゃんに聞いて知ってると思うんだ。これ以上、こういうことが起こらないといいんだけど」
「万知ちゃん、もう一杯作ろうか」
万知の空いたグラスに手をかけた貫治の視線が、チラリと壁に掛かる数字のない時計に走った。貫治は、万知の帰らなければいけないタイミングを把握しているようだった。
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