1.悪戯

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「ま、万知です。こちらこそ、雅知がいつもお世話になっております」  我に返った万知は、慌ててお辞儀をした。万知にはおっちょこちょいな部分があって、雅知にはよく漫画のサザエさんに似ていると言われていた。このときも、万知のおっちょこちょいさは遺憾なく発揮された。 「やだ万知、飴!」  ゆきに言われて、万知は視線を下げた。陽治の格好良さに動揺した万知は、着ていたクレマチス柄の白い浴衣に、りんご飴をベッタリとくっけた。 「こっちにおいで、急いで」  大きな手は万知の腕を掴むと、上手に人混みをすり抜けて、神社の奥にある水道に連れて行った。 「ベタベタは取れないけど、りんごの色だけは抜いておいたほうがいいよ」  陽治はハンカチを湿らせると胸に染みついた赤い色素を、そっと叩いた。 「本当は下にもう一枚ハンカチか何かを置くといいんだけど。ごめんね、俺は一枚しかハンカチ持ってないから。ほら、薄くなってきた。家に帰ったらきちんと染み抜きして……」  陽治が顔を上げた気配がしたが、万知は見ることができなかった。初対面の男に、わざとではないとしても胸を触られているという現状に、頭はすっかりショートしていた。 「万知ちゃん? 大丈夫?」 「……あの、大丈夫です。自分でやります」  顔が熱いから、きっと耳まで赤くなっているだろうと、万知は思った。胸に触れていたことに気づいたのか、陽治の手が胸元から離れた。
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