1309人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「ま、万知です。こちらこそ、雅知がいつもお世話になっております」
我に返った万知は、慌ててお辞儀をした。万知にはおっちょこちょいな部分があって、雅知にはよく漫画のサザエさんに似ていると言われていた。このときも、万知のおっちょこちょいさは遺憾なく発揮された。
「やだ万知、飴!」
ゆきに言われて、万知は視線を下げた。陽治の格好良さに動揺した万知は、着ていたクレマチス柄の白い浴衣に、りんご飴をベッタリとくっけた。
「こっちにおいで、急いで」
大きな手は万知の腕を掴むと、上手に人混みをすり抜けて、神社の奥にある水道に連れて行った。
「ベタベタは取れないけど、りんごの色だけは抜いておいたほうがいいよ」
陽治はハンカチを湿らせると胸に染みついた赤い色素を、そっと叩いた。
「本当は下にもう一枚ハンカチか何かを置くといいんだけど。ごめんね、俺は一枚しかハンカチ持ってないから。ほら、薄くなってきた。家に帰ったらきちんと染み抜きして……」
陽治が顔を上げた気配がしたが、万知は見ることができなかった。初対面の男に、わざとではないとしても胸を触られているという現状に、頭はすっかりショートしていた。
「万知ちゃん? 大丈夫?」
「……あの、大丈夫です。自分でやります」
顔が熱いから、きっと耳まで赤くなっているだろうと、万知は思った。胸に触れていたことに気づいたのか、陽治の手が胸元から離れた。
最初のコメントを投稿しよう!