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「万知ちゃん帰っちゃったなぁ」
翔太はグラスに残るビールを飲み干すと、ウィスキーのロックを貫治に頼んだ。
「翔太、これで止めなよ」
空腹にアルコールはよくないと、貫治が二杯目の生ビールと一緒に出したピラフの皿は、とっくに空っぽだった。
「万知ちゃん万知ちゃんって、お前本当に万知ちゃんが好きなんだね」
「おう。万知ちゃんは俺の憧れだからな」
ロックと一緒に出されたもろきゅうを楊枝で刺すと、翔太は口に放りこんだ。
「そんなに好きなら、兄貴とつき合う前に告白すればよかったのに」
「いいんだよ。万知ちゃんが幸せなら、それでいいんだ」
「本当にそう思ってるの」
「うん。長く憧れすぎて、万知ちゃんへの気持ちが麻痺してるのかもな」
グラスの中で溶ける氷が重なる音がかすかにした。翔太が貫治を見上げると、貫治は顔を強張らせて微笑んでいた。
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