6.疑惑

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「あのさ、貫治は悪くねぇよ。悪いのは陽治さんだろ。それにこれは、俺たちが口を出す話じゃない。雅知もだ」  顔を歪めた貫治の視線は、伏せられたままだった。 「万知ちゃんが気づいているかどうかは知らないけど、でもこれは、万知ちゃんと陽治さんの問題だ。万知ちゃんや陽治さんから相談されて初めて、俺もお前も頭を悩ませればいい。貫治、今こうやってお前が苦しむことはないんだ。お前は、店のことと自分のことを考えてればいい」  貫治がゆっくりと顔を上げた。瞳は、苦しそうに潤んでいた。 「その上で、どうしても気になったり何かあったら、俺がいつでも、なんでも聞いてやる。一人で抱えるなよ、いいな」  繊細で優しい貫治は、いつも、己の器ギリギリまで、苦しみや悲しみを溜め込む。真面目な雅知も、なかなか本音を吐露したりはしないが、雅知の沈黙と貫治の沈黙は質が違う。翔太や雅知のように、自己解決し乗り越える強さが、貫治には少し足りなかった。 「ありがとう」  貫治が翔太に背中を向けた。こぼれた涙を拭っているのだろう。翔太はノンケだから、生物学的に男である貫治は恋愛対象にはならない。それでも、貫治の力になりたいと思うのは、友情を越えた何かがあるからかもしれないと思っていた。  しばし、二人しかいない店内に静寂が流れた。そろそろ店も混み始めるころだろう。最初の客が来たら帰ろう、翔太がそう考えたときだった。  乱暴に開いた店のドアから姿を現したのは、雅知だった。
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