6.疑惑

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 雅知を見て、渡りに船だと翔太は内心喜んだ。貫治はずっと三人で集まりたがっていたけれど、忙しい雅知と予定が合わずに、なかなか叶えてやることができなかった。ひとまず万知と陽治のことは横に置いておいて、とは難しいかもしれないが、今は純粋に久しぶりの再会を喜び、貫治の気持ちが少しでも晴れればいい、そう思った。 「雅知! 久しぶりだな」  となりの椅子に腰かけた雅知の肩に腕を回して、翔太は今までの重い空気を払うように、陽気に笑った。 「珍しいな。仕事は? 今夜は残業なしか? だったら、電話くれたらよかったのに」  いつでもつき合うぜ。続けようと思っていたセリフが、翔太の口をでることはなかった。  骨張った雅知の肩が、微かに震えていた。 「どうした? 寒いのか」  よくよく見れば、雅知の顔は血の気が引いたように青白く、ずいぶんと具合が悪そうに見えた。それなのに、ひどく興奮しているようにも見える。  雅知は消え入りそうな声で、貫治にロックを頼んだ。出されたウィスキーを一気に飲み干す雅知を見て、何か腹に入れてきたのだろうかと、妙な心配が翔太の頭をかすめた。  二杯目を頼んだ雅知は、それも一気に飲み干す、がっくりと項垂れた。  酒に強いはずの雅知が、たった2杯のロックで悪酔いするわけがない。でも、横で俯く雅知の頭はフラフラと揺れていて、酔っ払いそのものだった。そんな雅知を見かねたのか、貫治が水の入ったグラスを置くと、雅知は黙ってそれをウィスキーと同じように一気に飲み干すと、テーブルに突っ伏した。
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