6.疑惑

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 昨夜はそんなに飲んだつもりはないし、そもそも、酒は弱い方ではないはずだ。それなのに、こめかみ辺りを鈍器で軽く叩かれているような痛みは、二日酔いそのものだった。きっと、雅知の悪酔いに影響されたのだろう。翔太は、コンビニエンスストアでウコンの入った二日酔いに効くドリンクを買うと、空に近い胃の中へ流し込んだ。  駅からの道のり、万知がいるかと探してみたが見当たらなかった。今日は休みなのだろう。昨夜貫治からあんな話を聞いたばかりだ。どんな顔をすればいいのか分からないし、ちょうどいいのかもしれない。  少しでも不快な頭痛が治まればいいと、首を回しながら、翔太は警備センターの受付に挨拶をして事務所へと向かった。  まだ業務開始時間までは少し早い事務所の中には、八割程度のスタッフが出勤していた。翔太は、自席に腰かけると、デスクトップパソコンを立ち上げた。朝一でメールのチェックをするのが、翔太のルーティンだった。  半年後にリニューアル予定のフロアに、新しく出店を打診しているショップの運営会社から、メールが来ていた。最初に話を持ちかけたとき、渋るような態度を見せていたが、今週中に打ち合わせできそうだ。翔太は小さくガッツポーズをすると、次のメールを開いた。 【売り上げ報告】とサブジェクトがつけられ、添付ファイルが添えられていた。迷惑メールの匂いがプンプンする。こういうのは、開かずに削除するに限る。  削除しようと右クリックしたのに、メールが開かれた。最近マウスの調子が悪い。使っていないマウスのストックと交換しようと席を立ち上がり、メールが展開された画面に視線を移した。
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