6.疑惑

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 ーー佐川陽治は不倫している。  翔太は目を疑い、まばたきを繰り返した。何度まばたきをしても、文字が変化することはない。咄嗟に辺りを見回した。誰かに見られていたら、万知が傷つれられるかもしれない。そう思ったが、となりも後ろも、まだ出勤していなかった。  添付されたファイルはJPEGだ。開くかやめるか、迷いはなかった。昨夜告げられた貫治の告白といい、このメールといいタイミングが良すぎる。このメールは、貫治が送ってきたのか。アドレスを見て、翔太は驚愕した。  furinwww@〇〇〇。なんてふざけたアドレスだと、翔太は憤りを覚えた。もしかしたら、陽治の不倫相手なのかもしれない。陽治のことを貫治は「浮気」だと言っていたけれど、本当は「不倫」なのだ。そもそも、「浮気」と「不倫」の違いはなんだ。明確な違いがあるのだろうか。  昨夜考えた気がするのに、思い浮かばなかった。違いなんてどうでもよくなってきた。  人を陥れるような真似を貫治はしない。このメールを送ってきたのは、貫治ではない。貫治以外の誰かも、陽治が万知を裏切っていることを知っているのだ。その人物は、ふざけたアドレスで翔太の社用アドレスにメールを送ってきた。ということは、翔太が知る人物と言うことだ。  名刺を渡した人は、無数にいる。メールを送れば、アドレスを含めた署名がつくようになっている。その中で、翔太だけでなく万知や陽治を知る人は、ほんの僅かだ。でも、その僅かな人たちがこんな悪質なメールを送ってくるとは思えない。  もしかしたら、陽治本人が送ってきている? 本当は万知と別れたくて、それでこんなに回りくどいことを……するわけがないと、翔太は頭を振って、添付ファイルを開いた。  そこに映るのは、陽治に違いなかった。となりに寄り添う女性は、見切れていて分からないが、万知ではないことはなんとなく分かった。二人の背景から、そこがラブホテルの入口であることも分かった。 「おはようございます」  となりの席に座る同僚に声をかけられて、翔太は慌てて画面を閉じた。 「おはようございます」  心なしか喉が震えているように思えた。つばを飲み込むと、翔太はそのメールを個人のアドレスに転送した。
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