7.確信

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 ひとしきり小言を並べた陽治の手が、万知の髪に触れた。 「ねぇ万知、そんな顔しないで。俺は万知が心配で話してるんだよ」 「分かってるよ。自分が情けないなって思って」  いつから、こんなふうに蔑まされたり、憐れむような目で見られるようになったのだろう。そのたびに、万知は自己嫌悪に陥り自分を責めてきた。 「大丈夫だよ。俺のそばにいれば大丈夫だから。万知は、何かをしようとか思わなくていい。俺と万知の生活を考えてればいいんだよ」  だったら、陽治も他の女に目をくれずに、常にそばにいてくれたらいい。言えるはずのないことばを飲み込むと、万知は陽治に微笑んだ。 「そうね。私は、陽治のことを考えてるね」  満足げに陽治は笑うと、食器を重ねて立ち上がった。使った食器を洗うつもりなのだろう。「私がやるから」と万知が声をかけると、「ありがとう」と満足げな笑顔のまま、陽治はリビングを出て行った。  ドアの閉まる音がリビングに響いた。急に両肩が重く感じて、机に突っ伏した。  陽治のことがまだ好きかと誰かに聞かれたら、自分はなんて答えるだろうか。好きなのか嫌いなのか、正直万知自身も分からなかった。 「好き」  呟いてみても、初めてのデートのときのようなときめきも高揚感も、万知の心の中のどこにも見当たらなかった。
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