7.確信

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 初めてのデートは、朝から快晴だった。寝ている間に降ったらしい大雨のおかげで空気は澄み、遠くに見える入道雲も鮮やかに見えた。まとわりつく湿気たっぷりの空気は鬱陶しくて、汗で貼りつく前髪には辟易したが、歩いて行く先に待ち構える人を考えるだけで、足取りは軽く、蒸し暑さも吹き飛ぶようだった。  昨夜またかかってきた電話で、「現代美術は好き?」陽治に問われ、万知は即答できなかった。なんとなく美術館に行って、昔の偉人たちが描いた名画を観ることはあったが、現代美術に触れる機会はなかった。そもそも、現代美術がなんなのかすら、よく分からなかった。  知ったかぶりをすることも考えたが、自分らしくないと思い、万知は正直に現代美術について知識が乏しいことを話した。 「そうか。つまらないことを聞いてごめんね。明日、どこか行きたいところある? 映画とか買い物でもなんでもつき合うよ」  万知はこのとき、陽治がデートプランとして現代美術に絡む何かを考えていたのだと、気がついた。現代美術はよく分からないが、陽治とだったら勉強してみたい。陽治の好きなものに万知も触れたい。万知の中で、今まで感じたことのないような欲求が、むくむくと頭をもたげた。 「私、現代美術のことはよく分からないけれど、知りたいです。よかったら教えてください」  うんうんと何度も電話越しに陽治が頷いたのが分かった。見えなくても、陽治が嬉しそうに笑っているのが伝わってくるようだった。  ふたりの初デートは、展覧会巡りとなった。  当時、一人暮らしをしていた陽治が、わざわざ万知の最寄り駅まで迎えに来てくれることになっていた。あと少しで会える。  駅前の階段横の壁に寄りかかる陽治を見つけて、万知の胸は高鳴った。
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