7.確信

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 その店は、貫治の店から少し離れたところにあった。小さな和風料理屋だ。程よい明るさを保つ店内は、木の匂いと出汁の香りに包まれていて、店に足を踏み入れた万知は、どこかホッとするような温かさを感じた。  案内に出てきた店員に待ち合わせだと伝えると、奥にある襖に囲まれた半個室のような席に通された。 「万知ちゃん」  先に着いていた翔太が、笑顔で手を上げた。 「お待たせしてごめんなさい」 「俺もさっき来たところだよ。迷わなかった? 駅で待ち合わせすればよかったかな」  万知は首を横に振ると、翔太の向かいの席に腰かけた。駅で待ち合わせをしようと翔太に言われたとき、なぜか陽治の顔が浮かんだ。やましいことなど何もないけれど、陽治に黙って他の男と待ち合わせすることが、とても後ろめたかった。もうひとつ、駅で待ち合わせをして、誰か知り合いに見つかったら。そんな身勝手な考えが頭をかすめ、万知は駅での待ち合わせを断り、店で直接会うよう翔太と約束を交わした。 「急にごめんね」 「とんでもない。万知ちゃんとふたりで食事できるなんて夢みたいだよ」  屈託のない笑顔を見せる翔太の優しい眼差しに耐えられず、万知は俯いた。陽治も万知を優しく見つめることはある。でも、それとは違う翔太の瞳に、万知の胸は強く締めつけられた。
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