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椀ものはごま豆腐をすまし仕立てにしたもので、鱧に添えられたミョウガが彩りを添えていた。刺身のあとに出てきた牛肉は、とろける食感で甘くおいしかった。
突然の誘いを不審に思っているはずなのに、食事の間、誘った理由に翔太が触れることはなかった。他愛もない話を面白おかしくする翔太の話術に、万知の気持ちは和み、気がつけば笑い転げていた。
こんなに楽しくておいしい食事をしたのは、久しぶりだった。酒の酔いも手伝って、万知の心にはめられた枷が緩み始めたのは、最後の甘味が運ばれてきたころだった。
「翔太くん、今夜はありがとう」
水ようかんに漆のフォークを差しながら、万知は翔太を見た。
「いいえ、こちらこそ。万知ちゃんといろいろ話せて楽しかったよ」
陽治と薫のことを話してしまおうか。万知は喉元までで出かかることばを何度も飲み込んだ。
話したところで、いいことはない。確信はあっても、証拠があるわけではない。陽治と薫を貶めたいわけではない。
本当に? 水ようかんに映る照明の光が、四方に広がった。
本当に、貶めたいと思わない? 罰がくだればいいと思ってない? ふたりを同じように辛い目にあわせたいと思わない? 自分と同じように苦しめばいいと思うでしょう?
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