7.確信

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 エアコンのついていない蒸し暑い部屋の中、陽治が動くたびに万知の唇から吐息が漏れた。快楽なのか苦痛なのか、久しぶりの感覚に脳は麻痺していた。  首筋に触れる陽治の熱い吐息を感じるたびに、子宮の奥が燃えるように熱くなる。でも、突かれるたびに広がる甘い疼きとは裏腹に、胸の奥は凍るように寒く、冷静だった。  陽治の動きが止まり、万知の上に崩れるように倒れた。じっとりと汗ばむ肩も、荒い呼吸もすべてが愛おしい。万知の指が、陽治の髪に触れた。素直な髪に指を通すと、陽治の体が離れ、二人の間にできた隙間にわずかに冷えた湿気った空気が流れた。  苦悶の表情を浮かべた陽治が、万知を見下ろしていた。こんなとき、どういう顔をするものなのか、万知はすっかり忘れていた。優しく微笑むのか、はにかむのか、熱っぽく見つめるのか。迷いながら陽治を見上げた。  苦悶の表情を浮かべる陽治の口元が、冷ややかに歪んだ。 「キスしてほしい?」  そういえば、行為の前も最中も一度もキスをしなかった。できるならキスをしたい。かといって、素直に同意するのも恥ずかしい。困った万知は、ただ陽治を見上げた。 「ダメだよ、キスはしない」  五年ぶりにセックスはしたのに、五年ぶりのキスは許されないことに、万知は単純に疑問と恨めしさと、隅のほうで訝しさを抱いた。 「万知はそんなに俺が嫌い?」  勢いよく起き上がった陽治は、万知のほうへティッシュペーパーの箱を放ると、下着を身につけて部屋を出て行った。部屋を出る陽治の顔は、よく見えなかった。  ――嫌い? 私が陽治を?  突き放され、万知はことばを失った。陽治のことばが頭の中で膨れ上がる。  万知の中から、陽治が放出した液体が流れ出た。その感覚に初めて、万知は自分が泣いていたことに気がついた。
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