1.悪戯

8/10

1309人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「あ、違うのよ。この間ね、ちょっとした騒ぎがあって」  母の言う騒ぎは、物騒な方だと直感した。何があったのだろうかと、万知は続きのことばを待った。 「ほら、近くに公園あるでしょう。二丁目公園」  万知が小さなころよく遊んだ公園だ。今では、だいぶ整備されたが、昔は土の地面で雨が降るとよくぬかるんだ。地球儀のようなぐるぐると回る遊具を、万知も雅知も気に入っていた。 「あそこにね、新品の猫のぬいぐるみがたくさん捨てられてたの」  ひどく気味が悪そうに母が話すものだから、何か殺人事件でもあったのかと思った万知は、拍子抜けした。 「もったいないね。納品するはずだった荷物が落ちていたのを子どもが悪戯したのかな。業者さんも店も困っただろうね」  あくびをかみ殺してテレビをつけた。万知は、陽治を気遣って、聞こえるギリギリまで音量を下げた。 「それだけじゃないの」  母が一段と声を潜めた。テレビでは、有名俳優の不倫発覚のニュースを取り上げている。こういった芸能ニュースは多いが、妻である有名女優のことを考えると、万知はいつも辛くなった。 「そのぬいぐるみ、シアンにそっくりなのよ。それにね、どこか一部が壊れてるの。足が取れてたり、耳が取れてたり、お腹が裂けて綿が出てたりするのよ」  すっかり打ちひしがれたような声でそう言うと、母は長いため息を吐き出した。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1309人が本棚に入れています
本棚に追加