8.不信

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 翌朝、陽治はいつものようにまだ眠っていた。  乱れのないパジャマ、別々のベッド。昨夜のことは夢だったんじゃないかと思いたかった。でも、陽治が万知の体に付けた刻印の痛みは、下腹にかすかな鈍痛として残っていた。  いつものように弁当を作り、いつものように一人の朝食を終えて、万知は音を立てないように気をつけて家を出た。 「万知、おはよう」  バスを降りて歩いていると、いつものように由香里がやってきて万知の肩を叩いた。 「おはよう」 「どうした? 具合悪い?」  体は疲れているのに、やたら興奮状態だったからだろう、昨夜は眠りが浅かった。目の下にできたクマは、メイクでだいぶごまかしたつもりだった。 「大丈夫、元気よ」  笑った顔も引きつっているかもしれないが、万知は笑うことしか思いつかなかった。 「ならいいんだけど。何かあったら話聞くからね」  最近、『ハナアサギ』ではパート同士の小さな諍いが起きていた。諍いは遅番のパートの中で起こっていて、万知に影響はなかったが、由香里はそれに万知が巻き込まれているのではと、心配しているのかもしれなかった。 「私は本当に大丈夫よ。由香里も、いつでも話聞くから、溜め込まないでね」  由香里の顔は心配そうなままだった。もし、由香里がプライベートの話をしているにしても、由香里には絶対に話せない。由香里もいろいろ大変なのに、万知のプライベートのことで忙しくて優しい由香里を煩わせることはしたくない。  互いにもう口にすることはなく、そのあとはテレビでやっていたスイーツの話題に移った。  翔太に会ったら、昨夜送ってもらったお礼を言おうと思っていたが、翔太に会うことはなかった。  休憩でメッセージを送ろう。今度一緒に、そのスイーツを食べに行こうという由香里に曖昧な相づちを打ちながら、万知は昼休みのことを考えた。
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