8.不信

8/14
前へ
/92ページ
次へ
 ふたりが浮気をしていると勘違いしていたから、半ば自暴自棄な状態で翔太と食事に行った。翔太に寄りかかりたいと、少なからず思ったことは事実だ。情報に振り回される弱く情けない自分を友人にさらけ出すのは、勇気がいった。 「由香里には、正直に話す。私ね、陽治が浮気しているんじゃないかと思ってたの。それでちょっと落ち込んで、翔太くんに話を聞いてもらおうと思ったの。なんかさ、ずるいよね、浮気されてるかもしれないから異性を頼るって。結局ね、陽治の浮気はなかったのよ。でも、私自身がどこか後ろめたくて由香里に話せなかったの。ごめんね。みっともないよね、仕事でつき合いがあるのに、翔太くんを頼るなんて」  羞恥で顔が熱かった。気まずくて、万知は目をそらした。由香里に呆れられても、自業自得だ。これは、陽治を疑った罰だ。 「ねぇ、万知」  呆れた様子で冷たい視線を投げられるか、大きく息をついて落胆したような顔をするかと思っていたのに、由香里の態度はとても意外だった。子どもに言い聞かせる母親のように、由香里は万知の瞳を真っ直ぐに見た。 「本当に、陽治さんの疑いは晴れたの?」 「やだなぁ、真面目な顔で。晴れたよ、私の勘違いだった」  由香里は陽治の疑いが晴れたとは思っていない、そう感じた。由香里の視線に、万知はなぜかひどい苛立ちを覚えた。 「万知がそう思いたいだけじゃない?」 「そんなことない。だって、陽治は優しいもの」  由香里の言い方に、万知は声を荒げた。夫婦のことをとやかく言われ、思いのほか腹が立っている自分に少し驚いた。  陽治を疑われて腹が立っているのか、心の奥底では、まだ自分も疑っているのか。陽治は優しい、万知を愛してくれている。  きっと、陽治が疑われたことに腹が立つのだ。万知はグラスに少し残る、氷で薄まったレモンチェッロを一気に飲み干した。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1306人が本棚に入れています
本棚に追加