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ふたりが浮気をしていると勘違いしていたから、半ば自暴自棄な状態で翔太と食事に行った。翔太に寄りかかりたいと、少なからず思ったことは事実だ。情報に振り回される弱く情けない自分を友人にさらけ出すのは、勇気がいった。
「由香里には、正直に話す。私ね、陽治が浮気しているんじゃないかと思ってたの。それでちょっと落ち込んで、翔太くんに話を聞いてもらおうと思ったの。なんかさ、ずるいよね、浮気されてるかもしれないから異性を頼るって。結局ね、陽治の浮気はなかったのよ。でも、私自身がどこか後ろめたくて由香里に話せなかったの。ごめんね。みっともないよね、仕事でつき合いがあるのに、翔太くんを頼るなんて」
羞恥で顔が熱かった。気まずくて、万知は目をそらした。由香里に呆れられても、自業自得だ。これは、陽治を疑った罰だ。
「ねぇ、万知」
呆れた様子で冷たい視線を投げられるか、大きく息をついて落胆したような顔をするかと思っていたのに、由香里の態度はとても意外だった。子どもに言い聞かせる母親のように、由香里は万知の瞳を真っ直ぐに見た。
「本当に、陽治さんの疑いは晴れたの?」
「やだなぁ、真面目な顔で。晴れたよ、私の勘違いだった」
由香里は陽治の疑いが晴れたとは思っていない、そう感じた。由香里の視線に、万知はなぜかひどい苛立ちを覚えた。
「万知がそう思いたいだけじゃない?」
「そんなことない。だって、陽治は優しいもの」
由香里の言い方に、万知は声を荒げた。夫婦のことをとやかく言われ、思いのほか腹が立っている自分に少し驚いた。
陽治を疑われて腹が立っているのか、心の奥底では、まだ自分も疑っているのか。陽治は優しい、万知を愛してくれている。
きっと、陽治が疑われたことに腹が立つのだ。万知はグラスに少し残る、氷で薄まったレモンチェッロを一気に飲み干した。
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