1306人が本棚に入れています
本棚に追加
「変なこと言ってごめん。別の友だちが旦那さんの浮気でボロボロになったのを見たから、心配で。余計なことを言った」
由香里が、申し訳なさそうに眉をひそめて目を伏せた。
「それに、万知が少し変わった気がして。心配だったの」
「変わった? 年を取ったからかな」
「それはお互い様でしょう」
笑い声を上げ、由香里は店員にレモンチェッロをふたつ追加で頼んだ。
「乾杯し直そう。ごめんね、変なこと言って」
由香里の笑顔を見て、万知も笑顔を作った。「変わった」由香里の言ったことばが胸に刺さっていた。
――変わった? 私が?
自分では、どこか変わったつもりはない。確かに、高校生のままとはいかないから、年齢とともに変わってはいるだろう。
「私、変わったかな」
「そうね、少しだけ。結婚して、変わったと思う」
「おばさんぽくなった? 年も年だし、仕方ないけど」
由香里の顔が優しく緩んだ。
「万知は今も可愛いよ。でも、そうね、強いて言うなら、積極性がなくなった気がする」
積極性。万知は口の中で反芻した。昔から自分は積極的なほうだ。消極的な部分など、自分には見当たらない。
「私は常に積極的で、ポジティブなつもりなんだけど」
陽治に無理を言って、ハナアサギで働くことを許してもらった。食事に行くときも、食べたいものを積極的に言っている。洋服を買うときも家具を選ぶときも、ちゃんと自分の好みを主張している。
自然に眉間にしわが寄っていた。万知は慌てて顔を作ったが、訝しげな表情をしっかり見られたようだった。由香里は楽しそうに笑うと、真顔で万知に顔を寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!