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厄災の日
焼けるように胸が痛い。肋骨が折れているようだ。
そして、そこら中が熱い。それは家も研究室も、何もかもが燃えているせいだ。
「ニンゲンなんて弱いもんだなあ。チェッ、つまんない」
俺を蹴り飛ばしたそいつが、俺を覗き込んで言った。みかけは子供のようだし、表情も軽いのに、恐ろしく強いやつだ。
「そりゃあ、俺達魔人とは違って、魔力を持たないのが元々だというからな。体の強化だってできないだろう」
そう答えたのは、真面目な感じの男だ。とはいえ、襲って来た犯人の1人だが。
「もう帰ろうよ。このニンゲンを連れて行けばいいんだろ?」
おどおどしたように最後の1人が言う。
この3人がいきなりうちを襲い、辺り一帯が、大爆発を起こしたようにはじけ、天を真っ赤に染めて炎が燃え盛っていた。後に、『厄災の劫火』とも呼ばれるようになる。
「離……せ……」
俺の絞り出した声は、届いたらしい。
「あれえ?生きてたよ!ねえ、殺していい?どうせ連れて行っても死ぬでしょ?いいよね。あとどのくらい遊べるかな」
子供っぽいのが言うと、真面目そうなのが舌打ちし、父と母が絶望的な声を上げる。
「やめてくれ!大人しくついて行くから、息子は助けてくれ!」
「ふうん?人質として優良?」
「わ、私が行きます!だから十分でしょう!?」
俺はぼやける目で彼らを睨み、両親を見た。
「やめろ……!」
彼らは詰まらなさそうに俺を見、真面目そうなのが、
「これ以上いても仕方がない。行くぞ」
と言って仲間を急かし、両親を連れて、踵を返した。
「待て……!父さん、母さ……ん……!」
揺れる炎の向こうに彼らが消えていく。
俺は初めて、心からの絶望を知り、心から力を望んだ。
目の前に、薄汚れた天井があった。
俺は知らず入っていた力を抜いて、布団の上に起き上がり、溜め息をついた。
あの日の悪夢を見るのは珍しい事ではない。繰り返し、繰り返し、夢は罪を突きつけるかのように俺の脳裏に現れては、弱さをあざ笑う。
あの出来事は、父親の研究していた人工魔力実験の暴走事故とされている。そのせいで、多くに人が犠牲になり、両親は行方不明――と言いつつ、死体も残らないほどに焼き尽くされたとされている。
それまでは世界有数の魔導研究者だった父は、一夜にして、大災害の責任者、大罪人となったのだ。そして生き残った俺は養護施設に入る事になり、この5年間、大罪人の子として、たくさんの人に恨まれつつ生きて来た。
でも俺は諦めていない。いつか汚名をそそぎ、両親を取り戻してやる――!
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