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「颯斗、ご挨拶周りの間、ちゃんとおとなしくしているんだよ」
「はぁい、分かってるってば」
「こら、みっともなくキョロキョロしない!……はぁ、いつになく落ち着きがないな」
心配そうな顔の父に手を繋がれて、僕は大きなお屋敷の広間に入った。
連れて行かれたのは『偉い大人達』の集まるパーティーだ。
頭の上の方では、父が似たような格好のおじさんやお爺さん達に挨拶をしている。
「おや、笈川様。可愛らしい方をお連れで」
「うちの長男の颯斗と申します。颯斗、旭様にご挨拶なさい」
「はいっ、笈川颯斗ともうします。初めまして、あさひさま」
元気よく名乗ってにこっと笑いかければ、たいていの大人たちは笑い返してくれた。
頭を撫でてくれる他人の手が、僕は好きだった。
その瞬間、世界に僕のことを好きな人が、一人増えるのだから。
「可愛らしい御子だ。笈川様も、長生きせねばなりませんなぁ」
「いやぁ、やんちゃ坊主で困っておりますよ」
「うちの孫娘がアルファでね。年の頃もちょうど良い。今度颯斗くんを連れて遊びに来てくださいな」
「これはありがとうございます。またいずれ、ぜひ」
人の良さそうなお爺さんの誘いを、父が嬉しそうに受けているのを上の空で聞き流しながら、僕はずっと、会場のどこかから感じる甘い気配に気を取られていた。
ドキドキと、心臓が妙に高鳴っている。
きっと、僕の『運命』はここにいる。
そう思った。
だから、彼を見つけた時。
僕は迷わずに駆け出したのだ。
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