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「……私に十歳下のお子様を持ち帰る趣味はありませんよ」
ピクリと眉を動かしてバッサリと切り捨てた彼に、僕はパァッと表情を明るくする。
思ったより全然年上じゃなかった。
イケる、お似合い夫婦になれる、これはもらった!
「あ、十歳しか違わないんですね!ぴったりの年の差です!結婚しましょう!」
「はやとぉおおおおお」
しつこく続くプロポーズに、父は夕食抜きを言い渡された時の僕みたいな顔をした。
つまり、今にも気絶しそうな顔だ。
僕を抱き上げている腕にはガチガチに力が入り、一歩間違えば絞め殺されそうなほどだ。
「……坊やの勇気と度胸に敬意を表して、一応訊ねましょう。なぜ、そんなに君は僕と結婚したいんですか?」
どうにも引く気のなさそうな僕にため息をつくと、彼は年端もいかない子供の戯言に付き合ってやるか、とでも言いたげな、大人じみた顔で僕を見下ろした。
けれど。
「僕があなたの運命の番だからです!」
僕が言い切った途端、彼の顔から表情が消えた。
「ははっ、ウンメイのツガイか……馬鹿馬鹿しい」
それまでの社交的な振る舞いが嘘のように、彼はいっそ年相応なほど苛立ちをあらわにして吐き捨てる。
そして、あからさまな侮蔑を隠しもせず、真冬のような冷たい顔で僕を見下ろした。
「夢見がちなお子様はもう寝る時間です。お帰りになったらいかがですか?」
「はいっ!大きくなったら一緒に寝てくださいね!っむぐ」
けれど限りなく前向きは僕は、満面の笑みのまま言い切った。
真っ白な顔をした父に口を押さえられながら、僕はキラキラの眼差しのまま、情熱を込めて目の前の彼を見上げていた。
へこたれる様子のない僕に、彼は冷たい目でにっこりと笑った。
「……笈川様の教育は随分ご立派なようで。尊敬申し上げます」
氷点下の眼差しで僕たち親子を見下ろす十歳上の運命に、僕は立ち向かうことを決めたのだ。
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