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朝八時。一矢が何時ものブリオーニのスーツに着替え、身支度を整えて出来立てのお弁当を運んでいる私の前に現れた。
きゃああーぁん。一矢本当にカッコイイ。
もう、ニセでも嫁なんだと思うと、顔がにやけちゃうわ。
あ、でもこんなフニャけた顔をしていたら、またクソに文句言われるから、しゃんとしておかなきゃ。
「伊織、弁当を忘れず作ってくれたのだな」
「ええ。勿論よ。旦那様の為(ニセだけど)に作りました」
にっこり笑ってやった。
「あー」ゴホン、ゴホン、ウェッホン、と一矢がそわそわしながら咳ばらいを何度もした。「う、うむ。愛妻弁当というのも悪くないな。よし、貰おう」
何時もは使い捨てのお弁当箱(プラ容器)なんだけど、そういうものがなかったから、ゴージャスなお膳みたいなものにお弁当を詰めた。こんなのしか屋敷にはなかったので、お弁当というより重箱に入れたとんかつ御膳みたいになってしまったのよ。重箱だから風呂敷に包んだ。大層なお弁当だ。とにかくそれを渡そうと、手を前に出した。
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