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「ありがとう、ゆめみさん」
「いいえ、できるだけのことをしたまでです。でも、あなたはこれでよかったのですか?」
「よかったの、って?」
「私の見せる夢は、その人の願望に近いものなの。本当は……」
ゆめみさんの言葉をさえぎって、ぼくは
「確かにゆめみさんの思う通りだよ。でも、ここでぼくの気持ちを伝えても、梨花さんはますます困るだけ。それなら出来るだけ彼女に幸せになって欲しい」
と言った。精一杯の強がりだ。それを聞いたゆめみさんは、
「そう……」
と言って少し寂しそうな笑みを浮かべた。ぼくはその表情を見て思わず。
「あの夢の続きが見たかった。リコリスさんこと梨花さんと恋人同士になって……」
偽らざる気持ちを言うと、うんうんと彼女はうなづいた。それを見たぼくはなんだか辛い気持ちが一気に吹き出して、泣きそうになってきた。彼女はそれを見越して、
「私の隣の席、来る?」
ぼくはだまってうなづいて、うながされた通りにした。そして、
「甘えてもいいよ」
その言葉を聞いて、堰を切るように涙が出てきて止まらなくなり、ついには彼女の胸の中で泣いてしまった。
そんなぼくを彼女は母親が子供をあやすように頭をぽんぽんとしてくれた。
「よく頑張ったね」
「うん……」
「代償まで自分で払ったんだよね。次はきっと、素敵な人に出会えるよ」
なぐさめられて、元気付けられると、心が不思議と癒されてゆくのがわかる。彼女は全てを受け入れてくれる聖母のようだ。しばらくして泣き止むと、ゆめみさんはぼくの身体を離して言った。
「そろそろ次の人が待ってるから、今日はこれで終わるけど、良かったらまたここに来て。あなたの前に素敵な人が現れるように祈ってるから」
もう少し、せめてあと5分だけ話がしたかったが、近くの席のサラリーマン風の男性がこちらをチラチラと見ている。
「うん。ありがとう。次は貴女みたいな素敵な人に逢いたいです」
「こらっ! からかわないの!」
さっきの聖母の顔から一転、思いきり顔を赤くした少女の顔になった。それがすごく可愛くて、この次はゆめみさんの夢が見たいと思いながら、ぼくはサイゼリヤを後にした。
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